採用基準の作り方
まずは、順を追って採用基準の作り方を説明します。
就活・転職市場のトレンドを把握
採用基準が世間の流れと逆行していたり、採用ターゲット層の価値観と乖離していたりすると、採用活動が難航する懸念があります。例えば、ワークライフバランスを重視する人が多い二十代を採用するのに、「仕事が第一で、飲み会でのコミュニケーションが重要だ」という志向を基準にするのは賢明とはいえないでしょう。
業界や職種によっても有効求人倍率には大きな差があるため、現状を踏まえた基準を設定することも大切です。人手不足の業界・職種にもかかわらず基準が古いまま(=人手が足りていたときは通用していた基準)だと、欠員の補充もままならないなど、事業に悪影響が出てしまいかねません。
業務に必要なスキルをヒアリング
現場社員や採用する部署の管理職にヒアリングし、業務上不可欠なスキルや資格を明確にしましょう。これらを満たしていないのに誤って合格と判断してしまうと、後からミスマッチが発覚し互いに負担となってしまいます。
応募者、採用担当者をはじめとする関係者の時間を浪費しないためにも、必須条件の確認・周知は非常に重要です。
コンピテンシーモデルを設定
必須条件が確認できたら、優秀な社員の行動特性をもとに「コンピテンシーモデル」を作成します。ヒアリングを行い、成果に結びつく行動と、その行動に至った考え方を洗い出しましょう。理想的な社員がいない場合は、求める人物像をベースに項目を作ります。
<コンピテンシーモデル作成の流れ>
- 高いパフォーマンスを発揮している社員を選定
↓
- 集約・整理されたコンピテンシーから必要な項目を決定
↓
- ヒアリングを行い、業績に関連する行動と、その行動に至った考え方を把握
↓
- 高いパフォーマンスを発揮できる考え方と行動をコンピテンシーモデルに設定
基準を書き出し、優先順位を決める
ここまで挙げた項目をすべてまとめ、必須条件、十分条件の分類や、優先順位付けを行いましょう。条件をある程度絞ることで基準が過度に厳しくなることを回避し、かつ僅差の評価の応募者から合格者を選ばなければならないときの判断材料とするためです。
人材要件との整合性をチェック
実際に運用する前に、改めて人材要件とのズレがないか確認します。人材要件は採用の根拠となる人物像であり、採用基準はそれを「ふるい」として機能するよう落とし込んだものです。合否判断の整合性がゆらがないよう、方向性が矛盾していないかチェックしておきましょう。
各選考フローに反映
書類選考、筆記試験、一次~最終面接まで、各段階でどの採用基準を適用するかを決定します。コミュニケーション力に関する項目を面接時の基準にするなど試験の方法別に分類するほか、選考が進むにつれてハイレベルな基準になるよう、段階を設定してもよいでしょう。
採用基準の重要性
面接担当者に合否の判断を任せても問題ないのでは?と感じるケースもあるかもしれませんが、採用基準は属人的・感情的な評価で合否に悪影響が出るのを防ぐために必要です。特に、面接が苦手なだけで人材要件に合致している人材を、短時間で見抜くことは至難の業です。反対に、面接での会話が得意で好印象であっても、スキル面では要件を満たしていないかもしれません。
このように採用の判断ミスや入社後のギャップを防ぎ、同時に基準を策定することで採用の条件に不備がないか見直すきっかけにもなります。人材要件があるからといって採用基準は不要、と考えるのは禁物です。
採用基準に「入れてはいけない」内容とは
採用基準はできる限り具体的であることが望ましいですが、出身地や性別といった就職差別につながる項目を入れてはいけません。
厚生労働省は、公正な採用選考として「応募者の適性・能力のみを基準として行うこと」としています。面接で尋ねたり、採用基準に盛り込んだりしてはいけない項目については、職業安定法や「公正な採用選考の基本」(厚労省)などを確認しましょう。
【参考】適切な採用基準例
ここまでのポイントを踏まえ、活用しやすい採用基準の例を紹介します。
<適切な例/経理職の場合>
【書類選考】
必須条件:大学卒以上、会計・経理の実務経験1年以上、日商簿記3級、普通自動車運転免許
歓迎条件:管理会計・決算・監査の実務経験、経理の実務経験3年以上、日商簿記2級以上、税理士資格【筆記試験】
・合計◯点以上、かつ分野1で◯点以上、分野2で◯点以上で合格
・合計点が基準に達していても、どちらかの分野の基準を下回った場合は不合格【面接】
・志望動機を明確に説明できるか
・話す内容が矛盾したり、二転三転したりしないか
・業務の工夫や改善について、自分の経験にもとづき動機、行動、結果を含めて説明できるか【最終面接】
・志望動機を明確に説明し、深堀りの質問に対して論理的に回答できるか
・当社でのキャリア形成について、見通しを持って説明したり、希望を伝えたりできるか
・当社の事業領域に関する知識を問う質問に答えられるか
「条件」は応募者の能力・適性に関する項目に絞り、選考の基準はなるべく「可・不可」を判断しやすい視点でまとめるか、コンピテンシーモデルと対比できるような設問にしておきましょう。
採用基準の見直しが必要なケースとは
すでに採用基準を作成・運用している場合でも、次のような状況が見られたら改善を検討した方が良いかもしれません。
書類選考の通過者が少ない
十分な応募数があるにもかかわらず、書類選考で多くの応募者を落としている場合、書類選考の採用基準が厳しすぎるか、項目が多すぎる可能性があります。採用の入り口を狭めてしまうとチャンスが減ってしまいます。面接の採用基準に回せる項目がないかも含め、見直しをしてみましょう。
応募数が極端に少ない
そもそも応募数があまりに少ない場合は、採用基準が非現実的だったり、基準に対して給与が低かったりすることが考えられます。期待するスキル・経験など条件が数多く挙げられていると、応募を敬遠されてしまうことも。まずは募集要項、採用基準ともに「必須条件と歓迎条件に分ける」ことから始めましょう。
現場と人事の合否の感覚が一致していない
現場社員と採用担当者の考え方や感じ方が異なるのは往々にしてあることですが、採用基準を設定しているはずなのに合否の不一致が多いようであれば、基準自体に問題があるかもしれません。解釈に幅が出るようなあいまいな内容になっていないか、現場と意見交換をしつつ再検討しましょう。
まとめ
採用基準は、書類選考から最終面接まですべての選考過程において不可欠です。普段は見過ごしがちな細かい点ですが、「できるだけあいまいな表現を排除する」ことで、誤解を生みにくく明確な基準に近づきます。スムーズな採用選考の実施を目指し、意識してみてください。
ただし、肝心の「求める人材からの応募」がなければ苦労して設定した採用基準も水の泡です。採用基準を具体的に落とし込む過程では、実際の求人が求職者に「いかに伝わりやすく、いかに響くか」を意識することも重要です。応募がある学生の質にお悩みの採用担当者の方は「『欲しい人材からの応募がこない』を解決する方法。」をぜひご覧ください。
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