離職率とは
まずは離職率の定義や計算方法、留意点について解説します。
基本的な情報を押さえることで、自社の離職率の善し悪しを判断できるようになります。
離職率の定義
離職率とは、ある一定期間に在籍していた社員のうち、離職した人の割合です。実は「離職率」には厳密な定義はなく、あくまでも分母となる社員数のうち、辞めた人の割合を指します。
産業別や新卒3年以内の離職率など、代表的な指標については公的な統計が調査・公開されています。調査によって分母が異なるため単純な比較はできませんが、自社の離職率が平均的かそれ以上かなど、改善を図るべき状況の判断基準として参考になる数字です。
離職率の計算方法
次に離職率の計算方法を紹介します。自社が属する業界の平均離職率を上回っていないか、チェックしてみましょう。
離職率の計算方法は以下のとおりです。
離職率(%)=一定期間の離職者数÷起算日の在職者数✕100
この「一定期間」「起算日」をそれぞれ設定することで、必要な範囲の離職率を計算します。
例1)年度初めに200人在籍している会社で、1年間に8人辞めた場合
離職率=8÷200✕100=4%
例2)毎年20人新卒採用しており、ある年度入社の新卒社員が3年間で5人辞めた場合
離職率=5÷20✕100=25%
離職率に関する留意点
離職率は、割合を示すものであることから、採用人数が少ない企業では、1人の退職が離職率に大きな影響を及ぼすことに留意が必要です。
極端な例では、2名採用したうち1名が退職すると50%の離職率となりますが、100名採用したうち10名が退職すると10%の離職率となります。このように、企業規模によって採用母数の違いが生じるため、離職率の数字が有効に機能しないケースもあることに注意してください。
離職率が高いとどうなる? 企業への影響
離職率が高いと、求職者が「職場環境に何かしら問題があるのでは」と不安を抱くかもしれません。離職率を企業の良し悪しの判断基準にしている求職者もいるため、企業イメージが悪化する可能性があります。
さらに、退職者が出たことで仕事が回らなくなった場合には、新たに人材を確保しなければいけません。そうなると、採用コストだけでなく、新卒・未経験者の場合は一から育てる労力がかかります。また、早期離職率が高いと、組織の力に変えられるはずだったノウハウが蓄積されにくくなります。
数字で見る、全労働者の離職率動向
これまで離職率の定義や影響を説明してきましたが、ここでは、厚生労働省の調査をベースに離職率の動向を数字でみていきます。
学歴別の離職率
大卒者の3年以内離職率がおよそ3割前後であることに対して、高卒、中卒ではそれぞれ5割、7割程度で推移しており、この傾向を「七五三現象」といいます。大卒者の場合と同様に、調査が始まって以来この傾向は大きな変動なく続いています。
高卒の3年以内離職率が大卒より高くなる背景には、独特の就活ルールが挙げられます。高卒の場合は学業を優先するため、並行して2社以上の選考を受けられない「一人一社制」の期間があり、基本的に内定が出た時点で就職活動を終了するようになっています。そのため選択肢が多い大卒の就活と比べると接触できる範囲に制約があり、構造上、ミスマッチが発生しやすいと考えられます。
知っておきたい業界別離職率ランキング
同調査によると、業界別で離職率が最も高いのは「宿泊業、飲食サービス業」の25.6%で、全産業平均を約12%も上回っています。続いて「生活関連サービス業、娯楽業」が22.3%となっており、接客・サービスに関わる業界における定着率の悪さが課題となっていることがわかります。
<産業別 離職率ランキング>
順位 | 産業名 | 離職率 |
1 | 宿泊業、飲食サービス業 | 25.6% |
2 | 生活関連サービス業、娯楽業 | 22.3% |
3 | 教育、学習支援業 | 15.4% |
4 | 医療、福祉 | 13.5% |
5 | 卸売業、小売業 | 12.3% |
6 | 学術研究、専門・技術サービス業 | 11.9% |
7 | 運輸業、郵便業 | 11.5% |
8 | 不動産、物品賃貸業 | 11.4% |
9 | 製造業 | 9.7% |
10 | 建設業 | 9.3% |
10 | 金融業、保険業 | 9.3% |
12 | 情報通信業 | 9.1% |
13 | 複合サービス業 | 8.1% |
※参考:厚生労働省「令和3年雇用動向調査」2 産業別の入職と離職
※参考:リクルートワークス研究所「大卒求人倍率調査(2023年卒)」
※「サービス業(他に分類されないもの)」は除外
※主要産業のみとしているため、「鉱業,採石業,砂利採取業」及び「電気・ガス・熱供給・水道業」は除外
一方、離職率が低いのは製造業(9.7%)や金融業、保険業(9.3%)、情報通信業(9.1%)郵便局、農業・漁業協同組合などの複合サービス事業(8.1%)など、いずれも10%以下です。建設業(9.3%)も10%を下回っていますが、5人以下の事業所が調査対象になっていないため、少人数の事業所(一人親方)を含めた離職率は、この数字より高い可能性があります。
中小企業の離職率動向
雇用動向調査によると、「100~299人」規模の企業の離職率はおおむね13~22%(平成29~令和3年)と、ほかの規模の企業より高めに推移していることがわかります。
業種により「中小企業」の定義は異なりますが、100~299人の企業は、令和元年には22%、直近でも20%と高めの傾向にあり、人材の入れ替わりが激しい層であるといえます。
100人未満の企業では離職率は比較的低めの傾向があり、人間関係の密接さや家族経営であるなど、従業員数の少なさによる連帯感の強さが影響しているのかもしれません。
※参考:「雇用動向調査」年次別推移 第3表 性、企業規模別入職・離職率(2021年)をもとに作成
中小企業において仕事を続けたくない理由のトップは給料が少ないことです。日本公庫総研レポート(No.2018-4)によると、現在勤務している企業で働き続けたくない理由として、「収入・昇給に対する不満」21.3%、「労働条件・労働時間・休暇に対する不満」8.3%、「昇進・昇格などの人事評価に対する不満」7.7%で約4割を占めています。
ただし同調査では、多少の不満があってもある程度がまんする割合も高く、待遇への不満が即離職へつながるわけではないことも明らかにされています。資金力が弱い場合は、待遇以外にも従業員が不満を抱える要因が増えないよう、社内の環境に気を配ることが大切です。
※参考:日本公庫総研レポート No.2018-4「人材の定着を促す中小企業の取り組み」
新卒の3年以内離職率
厚生労働省が公表している「新規学卒就職者の離職状況」によると、2019年3月に大学を卒業・就職した人の3年以内の離職率は31.5%となっています。
この離職率は、一般的に3年後離職率といわれており、新卒入社の社員がどれだけ定着しているかの指標として重要です。勤続年数ごとの内訳は、1年目の離職率が11.8%、2年目が9.7%、3年目が10.0%と特徴的な変動はなく、新卒入社の社員はおおむね1年に1割辞めている傾向となっています。
※参考・引用:厚生労働省「学歴別就職後3年以内離職率の推移」
「最近の若者はすぐ辞めてしまう」とのイメージを反映しているようにもとれますが、調査が開始された1987年(昭和62年)以来、3年以内離職率は、おおむね25%~35%の間を推移しており、近年に限ったことではありません。若手の3割が数年のうちに退職してしまうことは旧来から続いている傾向であり、分母が少ない中小企業では1人退職しただけでも値が高く出てしまうため、数字だけを追うのは非現実的なケースも存在します。
ただし、就活生の目には特に「離職率が低い企業=ホワイト企業」と映ることも確かです。離職率が高い、あるいは非公開にする場合は、改善に取り組むことはもちろん、職場の環境や入社後のフォロー体制をアピールして応募者の不安軽減に努めましょう。
数字で見る!初めての正社員勤務先を離職した理由
新卒の早期離職を防ぐには、離職理由を把握することが重要です。ここでは、初めての正社員勤務先を離職した理由を数字で見ていきます。
労働政策研究・研修機構の調査によると、男性と女性で離職理由に大きな違いがあります。女性は、「結婚・出産」が33.0%と突出している一方、その他の理由は多少の違いはあるものの、概ね男性と同じ傾向です。男女共通して高い離職理由は、「労働時間・休日・休暇の条件がよくなかったため」がそれぞれ3割弱、「賃金の条件がよくなかったため」「肉体的・精神的に健康を損ねたため」「人間関係がよくなかったため」といった労働条件に関する理由が続いています。一方、「会社に将来性がないため」「キャリアアップするため」といった会社の成長性や自身のキャリアアップに向けた離職理由は、男性の割合が多い状況です。
※引用:労働政策研究・研修機構「若年者の離職状況と離職後のキャリア形成Ⅱ」
※実線の赤枠、破線の緑枠はそれぞれ女性回答、男性回答割合が異性の回答より5pt以上多いものを示す
新卒の早期離職を防ぐ!数字に見る効果的な人事施策
新卒の早期離職は、企業と新卒入社者の双方にとって損失になります。ここでは、リクルートワークス研究所「企業調査による人材定着率の新卒・中途比較」の調査結果に基づき、新卒採用者に効果的な離職防止の人事施策を紹介します。なお、それぞれの項目で示す表は、新卒3年目の離職率と人事施策との関係性を示していることに留意してください。
(※参考・引用)株式会社リクルート内 リクルートワークス研究所「企業調査による人材定着率の 新卒・中途比較」
メンター制度
メンター制度と離職率の関係を見ると、離職率30%以上では、メンター制度がある企業は1.96%に対し、ない企業は11.90%であり、新卒入社者に対するメンター制度が有効であることがわかります。この背景として、学生が社会人になるにあたって、ビジネスマナーの習得などの面でメンター制度が有効に機能していると考えられます。
メンター制度とは、年齢の近い先輩社員などがメンターとなり、メンティーとなる新人の相談役としてサポートする社員定着の制度。メンターとメンティーは1対1のペアとなり、仕事上の相談はもちろん、精神面やキャリア形成などの相談にのり、新人におけるモチベーションを高める新人定着に有効な施策です。
MBO(目標管理制度)
MBO(目標管理制度)と離職率の関係においては、離職率30%以上を見ると、MBO(目標管理制度)がある企業は4.14%の一方、ない企業は14.63%と、メンター制度同様に、新卒入社者にとって有効な人事施策である結果となっています。
MBO(目標管理制度)とは、経営学者ピーター・ドラッカーが提唱した組織マネジメント手法のこと。この手法は、上司サポートの下、従業員自ら目標を立て、その達成度を評価します。このMBOを通じて、社会人としての行動や役割を習得できるほか、上司とのコミュニケーションを定期的に取れるなど、新卒入社者の定着効果が期待できます。
360度評価制度
360度評価と離職率の関係では、離職率30%以上に着目すると、制度がある企業では1.47%である一方、ない企業では9.32%と新卒入社者の定着に一定の効果が見られます。
360度評価とは、上司や部下、同僚などの複数人で評価をおこなう人事評価制度のこと。上司からの評価だけでなく、同僚や部下からも評価を受けることで、公平性や客観性を向上させることができる制度です。
360度評価は、上司・部下互いに評価され合うという関係性から、上司・部下のコミュニケーションが丁寧になりやすく、また、部下の意見が通りやすい環境といえます。調査によると、この丁寧なコミュニケーションが新卒入社者の定着につながっていると考えられています。
フレックスタイム制度
フレックスタイム制度と離職率の関係では、離職率30%以上の企業にフォーカスすると、フレックスタイム制度がある企業が0.00%に対し、ない企業は8.51%と新卒入社者の定着に効果が窺える結果となっています。
フレックスタイム制度とは、あらかじめ定められた総労働時間の範囲内で、一定条件の下、労働者が日々の始業・終業時刻を自由に決められる制度のこと。近年の若年層は、ワークライフバランスを重視する傾向があるため、こうしたニーズに対応することで、新卒入社者の定着向上を図ることが可能です。
超早期離職を防止する方法
若年層の転職が当たり前となった昨今、新卒入社後、わずか半年未満で離職する「超早期離職」も増えています。リクルートワークス研究所の調査によると、11.8%が半年未満で離職するという結果です。ここでは、退職理由となる「採用ミスマッチ」に焦点を当て、超早期退職を防止する効果的な方法を解説します。
(※引用・参考)株式会社リクルート内 リクルートワークス研究所:「11.8%が“半年未満”で離職する。「超早期離職」問題|研究プロジェクト」
採用ミスマッチを防ぐ
リクルートワークス研究所の調査によると、超早期離職の退職理由は「仕事内容が想像以上に過酷だった」「職場に相談できる人がいなくて孤立した」など、仕事上のミスマッチが原因にあげられています。こうした仕事上のミスマッチは、努力しても乗り越えることが困難なケースが大半でしょう。
こうした仕事上のミスマッチを防ぐには、選考段階から採用ミスマッチを防ぐことが重要です。会社説明会や面接の場面で、自社のよい面だけでなく、仕事上の厳しさや環境など、ありのままをしっかりと伝えることで、定着率の向上を図ることが可能です。採用活動においては、デメリットを伝えることで応募者が減少するなどの影響が生じる可能性がありますが、長期的には、入社後の定着率向上を図れるほか、求職者の信頼を得られるなどのメリットもあるでしょう。
(※引用・参考)株式会社リクルート内 リクルートワークス研究所:「11.8%が“半年未満”で離職する。「超早期離職」問題|研究プロジェクト」
採用ターゲットと採用ペルソナを設定する
採用ミスマッチを防ぐには、募集活動の前段階でのしっかりとした対応も重要です。
自社の価値観や社風、理念に共感してもらえるなど、自社にマッチした人材を採用することで、定着率の向上を図ることが可能です。そのためには、自社の採用ターゲットと採用ペルソナを設定し、採用ターゲットに向けて魅力的なアプローチをおこなうことで、自社にマッチした人材の応募を増やすことができます。
採用マーケティングの下、自社の価値観に合った採用ターゲットや採用ペルソナを設定して採用活動を展開することで、入社後の超早期離職を防止しましょう。
採用ターゲットや採用ペルソナを詳しく知りたい方は、「採用マーケティングとは?メリットやフレームワーク、7つの実施ステップを解説」をご参考ください。
まとめ
本記事では、新卒離職にフォーカスし、人事担当者が知っておきたい代表的な調査データや離職率が高い原因、新卒入社者の定着向上に有効な人事施策をわかりやすく解説しました。
新卒の3年以内離職率は、3割程度と旧来の傾向が続く一方、そのうち、仕事上のミスマッチを起因とした半年未満に離職する「超短期離職」は約1割と高い水準となっています。
本記事を参考に、新卒入社者の離職防止に効果的な人事施策を検討するとともに、超短期離職防止に向けて、採用ミスマッチの防止に取り組みましょう。
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