採用コンセプトの概要
はじめに、採用コンセプトの概要と、よく混同される採用キャッチコピーとの違いを解説します。
採用コンセプトとは
採用コンセプトとは「採用活動全体を貫く指針」のことで、採用活動を行っていくうえで大事にするポリシーや、自社の魅力や強みを言語化したものです。
採用選考に一貫性を持たせるために採用コンセプトを軸にすると、自社にどのような魅力があるのか求職者に伝わりやすくなります。
社外に向けて発信することはもちろん、社内の採用関係者にも共有してもらうことが大切です。コンセプトがあることで、採用に携わる社員は「今年の採用の重要ポイント」などを理解したうえで採用活動をおこなえるからです。
会社の事業内容や欲しい人物像の変化によって、採用コンセプトは都度変更する必要があります。したがって、毎年の採用活動をスタートする前に、採用準備のはじめの作業として設定するように心がけてください。
採用キャッチコピーとの違い
採用コンセプトに類似したものとして、採用キャッチコピーが存在します。
簡単に違いを説明すると、採用コンセプトは社内外に提示する「指針」であり、採用キャッチコピーは社外に向けて発信する「メッセージ」です。採用コンセプトが上位概念にあり、コンセプトに基づいてメッセージを作成するという関係にあります。
【役割の違い】
- 採用コンセプト…採用関係者に共有し、採用の狙いや戦略を共通認識とする
- 採用キャッチコピー…社外(求職者)に提示し、自社への興味を高めてもらう
【表現の違い】
- 採用コンセプト…「次期3か年計画に向けて、既存事業以外の新たな事業を生み出す人材を採用する」
- 採用キャッチコピー…「挑戦する人、求ム!」
自社の理念や企業戦略をもとに設定する採用コンセプトは、凝ったキャッチフレーズにする必要はありません。一方で採用キャッチコピーの場合は、表現を工夫し、応募者に伝わりやすい表現にすることが求められます。
なお、採用コンセプトは自社で考えるものの、採用キャッチコピーはプロのコピーライターに外注する企業もあります。このような場合でも、採用コンセプトをしっかりと設定し、その意図を伝えることで、コンセプトと合致した採用キャッチコピーを作成してもらうことが可能となります。
採用キャッチコピーについては、当サイトの別の記事で詳しく解説しています。
求職者に刺さるキャッチコピーを作り、求める人材を獲得したい場合にはぜひ参考にしてください。
応募者の心を掴む採用キャッチコピーとは?他社9事例でコツを解説!
採用コンセプトの重要性
そもそもなぜ採用コンセプトが必要なのでしょうか。あらためてその重要性について説明します。
一貫性のある採用活動を展開できる
採用コンセプトがあると、採用選考の各プロセスで一貫性のある活動が展開できるようになります。
もし採用コンセプトがなかった場合、採用サイトや面接など、それぞれを担当する社員によって、個人の感覚で採用活動をおこなってしまうことになります。
求職者がせっかく自社に興味を持ってくれたとしても、採用サイトや就職サイト、会社説明会、選考における担当社員の印象・発言が異なれば、結局どういう会社なのかが伝わらず混乱させてしまいます。結果、信頼できる企業と感じられず、記憶にも残りにくくなってしまいます。
さらに、仮に採用プロセス設計を巡り社内で意見の対立があった場合も、立ち戻る指針として採用コンセプトがあれば、建設的な議論が可能になるでしょう。
求職者に自社の想いを伝えられる
採用コンセプトは、求職者に自社の理念や想いを簡潔に伝えるためにも重要であるといえます。企業の理念や価値観、独自の社風など、自社らしさが起点となって設定するものだからです。
また、採用活動に関わる社員の間でも共通認識ができ、求職者に対してよりスムーズかつ正確に自社の理念や想いを伝えられるようになります。
あらゆる施策の指針となるものであるため、表現や制作物などを外部の制作会社に委託する場合でも、採用コンセプトをもとに自社の理念や想いに沿ったものを作成できるでしょう。
競合他社と差別化できる
採用コンセプトは、競合他社と差別化するためにも重要です。
同じ業界や業種では、ターゲットとする人物像が他社と重なることが多く、差別化を図る必要があります。採用競合他社との違いをアピールし、自社の魅力を伝えるためにも、採用コンセプトは重要といえます。
採用コンセプトによって、どのような魅力のある企業で、どのような人物を求めているか求職者に理解してもらうことは、採用のミスマッチを減らすことにもつながります。
人材獲得競争が激しい昨今においては、求める人材の心を惹きつけ、採用ミスマッチを防止する役割を担う採用コンセプトの設定は必須といえるでしょう。
採用コンセプトの設定手順
実際に採用コンセプトを設定する手順をお伝えします。一般的な4つの手順を紹介しますので、自社で設定する際の参考にしてください。
自社の強みを抽出する
採用コンセプトを考えるうえで大切なのは、自社オリジナルの強みとは何か、競合他社と差別化できるのは何かを知ることです。
自社の強みや特長をリストアップする方法として、マーケティングでよく使われる「3C分析」をおこなってみるのもおすすめです。3C分析とは「Customer(市場や顧客)」「Competitor(競合他社)」「Company(自社)」の頭文字である3つのCをさします。この3つの観点を軸に、外的要因・内的要因を考慮しながら自社情報を可視化していきましょう。
【図1】3C分析をもとにした情報整理の例
必要に応じてこのようなフレームワークを活用しながら、自社ならではの魅力を引き出してください。
求める人材像を設定する
求める人材像を設定する作業とは、自社が採用したいと思う人材を言語化することです。
求める人材像を設定する際に陥りがちなのが「明るい性格の人が欲しい」など、漠然とした言語化に留めてしまうことです。「困難も前向きに乗り切れる人材」なのか「話好きで楽天的な人材」なのかでは、かなり印象が異なります。
さらに「その仕事におけるどのような特性から、その人物が必要なのか」まで設定できれば、採用に関わる社員間で認識の齟齬が出にくくなります。
求める人材像がリアルに設定できれば、その人に響きやすい情報提供などをしやすくなります。
求める人材像を設定するには人材要件やペルソナを設定する必要があります。人材像があいまいでは、採用活動全体に一貫性がなくなりかねません。
ペルソナや人材要件については、当サイトの別記事で詳しく解説しています。求める人材像を設定できていない採用担当者の方はぜひ参考にしてください。
人材要件の定義や作り方、条件の優先順位付け・ペルソナ設定のコツ
採用活動におけるペルソナの作り方 メリットや具体例を紹介
コンセプトを言語化する
自社の強みや求める人材像が明確になったら、次は採用コンセプトとして言語化します。スローガンや方針として形にしていく作業です。
求職者のニーズと自社らしさとの共通項を言葉に落とし込み、実際に「今年の採用コンセプトはこれです」と社内外で共有できるイメージを言語化していきます。伝わりやすく、より明確な言葉で表現するようにしてください。
コンセプトの言語化の際は、採用担当メンバーだけでなく、他部署を含めた複数の目で共感を得られるかなどチェックし、ブラッシュアップをするのもおすすめです。
採用フローにコンセプトを展開する
採用コンセプトが社内の共通認識として固まったら、コンセプトをもとに採用フローに展開していきます。
採用サイトに表示するメッセージや、会社説明会でのコンテンツなどを「コンセプトが体現できているか」という観点で検討を進めていきます。
また、いきなりコンテンツの検討に入る前に、採用フローそのもののチェックも忘れないようにしましょう。
例えば「社風の良さに共感する人材を採用する」という採用コンセプトであるにも かかわらず、それを感じさせる採用フローが不足しているような場合は、見直しが必要です。必要に応じて、「面接回数を増やす」「社員座談会の実施」「社員インタビューをホームページに掲載」などの対応を検討してください。
採用フローに関しては当サイトの別の記事で詳しく解説しています。明確な採用フローがない企業の採用担当の方や、採用フローが一辺倒になっている企業の採用担当の方はぜひ参考にしてください。
採用フロー作成で採用課題が見えてくる?|チャート図付き【新卒】
他社の採用コンセプト事例5選
最後に、参考になる他社の採用コンセプト事例を紹介します。採用コンセプトは必ずしも採用サイトにそのまま出すものではないため、採用キャチコピーや掲載コンテンツ、事業背景などから採用コンセプトを紐解いていきます。
サントリーホールディングス株式会社
※引用元:サントリーホールディングス株式会社
サントリーホールディングス株式会社の採用サイトには「やってみなはれ」がトップページに掲げられています。同社の創業者の精神をダイレクトに伝えている事例です。
「やってみなはれ」は、単なるチャレンジ精神ではなく、高く広い視野を持って、何をするべきか自分で決められる人材を求めているというメッセージです。困難があっても最後までやり切って成果を出せる人、覚悟を持って仕事に取り組める人を採用したいという狙いがあります。
コンセプトの背景としては、世界の競合と戦うために多様な価値観を生み出すダイバシティ経営が挙げられます。だからこそ、「やってみなはれ」を実践できる人材を求めているのでしょう。
採用サイトには代表取締役からの動画メッセージがあり、どのような人材を求めているか、求職者にさらに伝わる工夫がなされています。
ソフトバンクグループ株式会社
直訳すると、「次なる時代を創る」という意味のメッセージを打ち出しているソフトバンクグループ。
同社は「情報革命で人々を幸せに」という経営理念のもと、世界の人々が最も必要とするテクノロジーやサービスを提供する企業グループとなることを目指しています。
採用においては、「Smart」「Professionalism」「Relation」を3つの軸として、挑戦し続け未来への貢献を考える人材を募集しています。
3つの軸のそれぞれの意味には、求める人材像が表現されています。Smartが「前例のない課題に数字と根拠をもってアプローチできる論理的思考力」、Professionalismが「各分野における高水準な専門性」、Relationは「世界トップクラスの企業とビジネスができるコミュニケーション能力」を意味しています。
ソフトバンクグループの取り組みのすべてが、新しい時代を創り出すチャレンジであるとして、採用コンセプトが立てられています。
アサヒビール
※引用元:アサヒビール
「挑戦の先には、いつも最高の乾杯がある」と、挑戦する人材を求めるメッセージと事業内容を絡めたメッセージです。
アサヒビールの採用サイトにおいて特筆すべき点は、このメッセージの前に「つくっているのは、ビールだけなのか」というテキストが表示される点です。単純にビールを作っているだけでなく、それを通じてお客様にとっての価値や体験を作るという信念が感じられます。
つまり、ビールやお酒が好きな人だけでなく、酒類業界の常識にとらわれず、新たな発想でお客様に価値を提供できる人材を求めているというメッセージも読み取れます。
アサヒビールは知名度が高いことから、安定志向を持つ人材からの応募が多かったそうです。若者を中心としたビール離れなどの時代背景もあり、会社全体として抜本的な改革が求められていました。
そこでアサヒビールは、リスクを恐れず常識にも捉われることなく、新しいことにチャレンジできるような人材を求めました。採用サイトには社員の「挑戦エピソード」のコンテンツもあり、日本だけでなく海外にも展開していくことのできる、柔軟な発想力を持った人材を求めていることがわかります。
伊藤忠商事株式会社
※引用元:ITOCHU RECRUITING
5大商社の1つである伊藤忠商事は「商人魂」を原点に据えながら、新しい価値を創り出すことに挑戦し続けています。その挑戦に共鳴する「アオい情熱を持った人材」を新しい戦力に加えたいという採用コンセプトが感じられます。
自分の信念を貫き、口だけではなく行動で示す人、常識や固定概念を壊し道なき道を切り拓く人、アオくさくて笑われてしまうような大きな夢に情熱を燃やせる人に出会いたいという、伊藤忠商事からのメッセージを打ち出しています。
新型コロナウイルスなどの外部環境の影響で総合商社としての役割も変化していくなか、情熱を持って柔軟な発想で未来に挑戦できる人材の必要性が背景として読み取れます。
「アオい情熱」のとおり、採用サイトの背景色をブルーで統一していることも特徴で、コンセプトと採用媒体に統一感を持たせています。
ダイキン工業株式会社
※引用元:ダイキン工業株式会社
空調関連商品での知名度が高いダイキンは、求める人材像をダイレクトに採用サイトのトップに表示し、なぜそのような人材が必要な事業なのかという自社事業への興味喚起を行っています。
ダイキンは「国境はない。マニュアルもない。だから、ダイキンの仕事は面白い。」という事業の魅力を掲げています。ダイキンは、日本だけでなく海外での売上も大きく、グローバル化を進めている企業だからです。
そのため、世界中で話題になっているCO2排出量を「ゼロ」にする「100→0の生み出さないイノベーション」という独自の概念を据えているのが特徴的です。
グローバル企業として、世界を意識した人材を求めていることが、採用サイトのコンテンツの随所から感じられます。採用コンセプトを見るだけで、企業がどういった戦略でビジネスを行っているかがわかる好事例といえるでしょう。
まとめ
採用コンセプトは、採用活動の出発点であり、全ての活動の指針となるものです。
コンセプトという言葉は、「概念」や「観念」を意味しています。始めから終わりまで一貫した「考え方の軸」として使われ、企画を考える場合などに用いられることが多い言葉です。
ただし、企画にあまり関わったことのない方などは、採用コンセプト設計に苦労しているケースも多いようです。そのような方は、チェックするだけで自社の魅力が抽出できる「8つの魅力シート」を活用してはいかがでしょうか?
幅広い視点から自社ならではの魅力がチェックできるため、思わぬアピールポイントが見つかるかもしれません。
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