新卒採用の基礎知識
まずは新卒採用の成り立ちや、採用活動を行うにあたって企業が遵守することを推奨されているガイドラインの存在など、基本的な内容についてご紹介します。
新卒採用とは
新卒採用とは、これまで正社員として就業したことのない、学校を卒業したばかりの学生を採用することです。本来は大学も高校も問いませんが、多くの場合は「大学を卒業したばかりの学生」を採用すること(または採用活動)を指します。
新卒採用は「企業が学生に対して選考を行い、内定を出して、卒業後の4月に入社してもらう」という流れが一般的ですが、実は、この採用方法は日本独自のものです。1879年から三菱などの一部企業が大学卒の人材を定期的に採用し始めたのが新卒採用の起こりといわれています。その後、企業による学生の青田買いが横行したため、採用の早期化を防ぐために「就職協定」というものが制定されました。ところが就職協定には十分な効果がなかったため、1998年の春に卒業する学生から適用するガイドラインとして、いわゆる「倫理憲章」が経団連により策定されました。
倫理憲章は何度か改定を経て、現在は「採用選考に関する指針」という名前でガイドラインの機能を引き継いでいます。採用選考に関する指針もたびたび変更が加えられていますが、2018年3月12日に改訂された最新版の指針には、企業の採用活動の時期に関して以下の内容が記されています。
広報活動:卒業・修了年度に入る直前の3月1日以降
選考活動:卒業・修了年度の6月1日以降
正式な内定日:卒業・修了年度の10月1日以降
ただし、採用選考に関する指針は経団連が定めたものであるため法的拘束力はなく、指針に背いたとしても罰則が科されることはありません。内閣府と文科省が2018年に行った調査によれば、面接の解禁などを意味する選考活動の開始時期を守った企業は約4割程度であることがわかりました。
なお、経団連は2018年10月、2021年の春に入社する新卒者の採用から、採用選考に関する指針を廃止することを決定し、正式に発表しました。その一方で、政府は「学生が学修時間等を確保しながら安心して就職活動に取り組むことができるよう」として、企業に上述の採用活動日程を継続して遵守するよう要請しています。ただし、これはあくまで「要請」であるため、ガイドラインがなくなれば企業間の採用競争はさらに激化することが予想されます。
※経団連と大学が2022卒より通年採用を行うことに合意しました→経団連と大学が「通年採用」に合意。就活はさらに早期化・長期化へ。
新卒一括採用とは
新卒一括採用とは、新卒者を対象に、毎年同じ時期に一定数の人員を採用することです。上述の通り、日本独自の雇用戦略として長きにわたり多くの企業が取り入れてきました。
詳しくは「新卒採用のメリット・デメリットとは」でご紹介しますが、新卒採用には人材を効率よく確保できるほか、教育コストが削減できるといったメリットがあります。一方、学生には就労経験がないためミスマッチが起こったり、特定期間に選考業務の負荷が集中したりといったデメリットもあります。
毎年同じ時期に行うとはいえ、新卒採用を成功させるためには、スケジュールを踏まえた準備が重要になります。特に新任の採用担当者の方は、まず新卒市場の全体像とスケジュールを把握することから始めましょう。
2020年の新卒市場・スケジュールについて詳しくは→「2020年卒の新卒採用徹底解説! スケジュールから準備まで」
新卒採用のスケジュールの組み方について詳しくは→「【人事担当者必見】新卒採用のスケジュールの組み方とコツ」
20201卒新卒採用の傾向
新型コロナウイルス感染拡大により、学生との対面コミュニケーションを控え、オンライン説明会・面接に切り替える企業が増えています。対面に比べオンラインによる採用活動は、企業の魅力を十分に伝えにくい上に、学生との信頼関係が構築しにくい傾向があります。採用担当者は、社内の雰囲気が伝わるよう、動画や採用ホームページなどの制作に力を入れたり、相互理解を深めるためにチャットやWEB面接ツールを導入したりするといった柔軟な対応が求められます。
日本では新卒一括採用が主流でしたが、3月から始まる予定だった会社説明会やイベントの開催中止により、多くの企業で新卒採用スケジュールの遅延が発生しています。通年採用に移行する企業が増える可能性があります。
「2021新卒採用の傾向と対策|コロナウイルスの影響、学生動向は」では、新型コロナウイルス感染拡大の影響を踏まえた傾向と対策をより詳しく説明しています。2020年の採用トレンドについては「【2020】採用トレンドまとめ 注目の手法|新卒・中途」で紹介しているので、ぜひご覧ください。
新卒採用のメリット・デメリットとは
新卒採用にはメリットとデメリットがあります。これから新卒採用の導入を検討している採用担当者の方は、双方をしっかり把握しておきましょう。
メリット
まずは新卒採用のメリットをご紹介します。
人員構造の最適化
新卒採用で若手労働力をまとめて確保することは、長期的に企業を存続させる上で大きなメリットになります。仮に中途採用のみを行うとしても、それはそれで即戦力を確保することになるため企業にとってはプラスです。しかし、中途採用中心では社員の年齢構成に偏りが生まれやすく、比較的若手の人材を採用できない場合は社員の平均年齢がどんどん上がっていく恐れがあります。年齢構成をバランス良く保ち、安定した企業経営を実現するには、毎年一定量の若手労働力を確保できる新卒採用が有用です。
リーダー・幹部候補となる人材の獲得
将来のリーダー・幹部候補を確保する面でも新卒採用は適しています。すでに他社の風土やカラーを体感・経験している中途者よりも、企業への忠誠心や愛着心を醸成しやすい新卒者を一から育成する方が、企業にとってはよりスムーズです。ただし新卒採用はポテンシャル採用であるため、当然ながら入社早々から将来のリーダー・幹部候補としての動きは期待できません。企業は選考の段階で学生の素地を見極め、獲得後も継続的に教育・指導することが求められます。
組織の活性化
フレッシュな新卒者が入社することで、社内の空気や人間関係に刺激を与えられるというメリットがあります。また、新卒者への教育・指導を通して、既存社員も自らの知識やスキルを改めて学習できるほか、新卒者の受け入れ体制の整備に伴い、それまで言語化されていなかった不文律などを形式知化できるというメリットもあります。さらに、新卒には同期がいるため、部署間の横のつながりを強化してくれることも期待できます。
企業文化の継承
「リーダー・幹部候補となる人材の獲得」でご紹介した「育成のしやすさ」にもつながりますが、他社を経験した中途者よりも、まっさらな状態である新卒者の方が自社の理念や文化といったカラーを受け入れやすく、また馴染みやすいといえます。そのため、企業文化を継承する担い手としても期待できます。
デメリット
続いて、新卒採用のデメリットをご紹介します。
育成コストがかかる
新卒採用は「就業したことのない学生」が選考の対象となるため、基本的にポテンシャル採用となります。そのため、多くの場合は戦力化するまでに育成コストがかかります。現場の状況によっては既存社員の平常業務に支障をきたす恐れもあるため、新卒採用を行う場合は受け入れ体制を整備しなければなりません。
ミスマッチが起こり得る
採用する学生は社会人(正社員)としての就業経験がないため、「いざ働いてみたら思っていたのと違った」というようなミスマッチが起こり、会社を辞めてしまうことにもなりかねません。選考中は学生のポテンシャルを見極めることのほかに、自社の理念や業務内容について、可能な限り深く理解してもらえるような工夫が必要です。
人材確保が難しい年がある
新卒採用は景気動向に左右されやすいです。当然、企業の経営状況によっては新卒者への先行投資を行えない状況も考えられます。若手労働力を毎年まとめて確保できるのがメリットではあるものの、景気動向に左右されずに新卒採用を継続するには、企業としてある程度の体力が必要になります。
新卒採用は中小企業にもおすすめ
ここまで新卒採用のメリット・デメリットをご紹介してきましたが、中小企業で新卒採用を行うかどうかを検討している方は、特にコスト面が気になったかもしれません。たしかに新卒採用には計画から選考・採用までの「採用活動そのもの」と「入社後の育成」にコストがかかりますが、長期的な視野で見れば、上述のように多くのメリットを企業にもたらします。
さらに新卒採用には、企業PRにもなるという副次的効果があります。新卒採用を行うと、説明会の開催やメディアへの求人掲載など、学生および世間全般に情報を発信する機会が必ずあります。そのため、将来自社で採用する中途者になる可能性のある学生や、既存顧客、競合他社、その他のステークホルダーに対して、自社の広報活動を行っていることにもなるのです。
新卒採用にはある程度の体力が求められますが、企業の「ブランド力」や「知名度」の向上にも役立つため、現在新卒採用を行っていない中小企業の採用担当者の方も、ぜひ検討されることをおすすめします。
新卒採用と中途採用の違い
新卒採用と中途採用には、下図のような違いがあります。項目ごとに比較してみましょう。
新卒採用 | 中途採用 | |
---|---|---|
採用目的 | ・将来的な幹部候補の育成 ・人員バランスの最適化 ・組織の活性化 | ・欠員補充 ・人員増強 ・新たな知識やメソッドの導入 |
入社時期 | 4月入社 ※9月入社もある | 通年 |
準備・選考期間 | 1年以上 | 数週間程度 |
教育コスト | 高い | 安い |
人件費 | 安い | 高い |
即戦力になる可能性 | 低い | 高い |
企業の文化・理念の継承のしやすさ | しやすい | しにくい |
新卒採用は「将来的に企業の中核を担う人材」、中途採用は「即戦力としての人材」を獲得するという目的が大きいです。
新卒採用を重視するか、中途採用を重視するか、あるいは双方をバランスよく実施するか。人材の獲得手法はさまざまですが、ぜひ自社に最適なスタイルを確立してください。
中途採用のメリット・デメリット
最後に、中途採用のメリットとデメリットを補足的にご紹介します。
中途採用のメリットとしては、やはり戦力化までのリードタイムが短い点が挙げられます。また、スキルや経験を評価して採用するため即戦力としての活躍が期待できます。さらに、自社にないノウハウやメソッドを共有してくれる可能性があることや、経験者であるため教育コストが低いという点もメリットです。
ただし、スキル面で教育コストがかからないとしても、会社独自の仕事の進め方になかなか馴染めず、新しいやり方に合わせてもらうのに時間がかかるケースはあります。中途採用で入社した人材は一度他社を経験しており、さらに転職を行っているため、組織に定着しにくい人材である可能性も否定できません。また、新卒者と比較して給与が高い点はわかりやすいデメリットでしょう。
企業としては「何を目的として採用を行うのか」という一貫した軸を念頭に置きつつ、新卒採用・中途採用のメリット・デメリットを比較検討し、目的に合った採用方法を選択すると良いでしょう。
まとめ
新卒採用にはコストがかかるなどのデメリットもありますが、それを補って余りあるメリットがあることも事実です。「停滞した雰囲気を何とかしたい」「企業理念に基づいた行動を取れる人材が欲しい」といった考えをお持ちであれば、新卒採用の導入を検討してみてはいかがでしょうか。
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