内定取り消しとは?
内定取り消しとは、企業が出した内定を取り消すこと。この「内定」とは、労働契約の成立を意味し、内定取り消しは解雇に相当します。そのため、合理的な理由がない限り、内定を取り消すことはできません。内定の意味や定義は、次章で詳しく見ていきます。
そもそも内定とは?
次に、内定とはどのようなことなのか、内定の概要や内定と内々定の違いを解説します。
内定とは
そもそも内定とは、求職者と企業の間で、入社後における労働契約を合意した状態のことです。
基本的には、企業が内定を出した時点で条件付きの労働契約が成立します。そのため、企業による内定の取り消しは解雇に相当し、よほどの事情がなければ認められません。
一方、求職者が内定を辞退することは、職業選択の自由(日本国憲法第22条第1項)と解約申し入れ権利(民法627条1項)に基づき、認められています。
内定と内々定の違い
内々定とは、就活ルール(※)が定める正式な内定日「卒業・修了年度の10月1日以降」の前に、内々に採用を決定した状態のこと。
特段の事情がなければ、10月1日以降は「内定」となり、正式採用へ進むことが一般的です。
「内定」との違いは、労働契約の成立有無にあり、「内定」は条件付きの労働契約が成立する一方、内々定には労働契約は成立していません。
内定と内々定の違いを詳しく知りたい方は、次の厚生労働省のサイトをご参考ください。
(※参考)厚生労働省:「内定や内々定を辞退する時は、どのような点に気をつければよいのでしょうか?|Q&A|確かめよう労働条件」
(※参考)内閣官房:「就職・採用活動に関する要請」
内定で労働契約成立!? 知っておきたい内定の法的効力
「内定」とは、求職者と企業の間で、就労開始予定日からの「労働契約」が成立している状態をいいます。入社するまでに、書面の交換や意思確認手続きといった労働契約締結のための意思表示が予定されていない場合、求職者が自社に応募した行為は「労働契約の申込み」、内定通知を出す行為は「労働契約の申込みの承諾」、つまり「労働契約の成立」を意味します。
ただ、いつ何時も「内定通知を出した=労働契約が成立した」になるとは限りません。
たとえば、入社誓約書や内定承諾書などの提出を求職者に求めている場合は、求職者がこれらの書類を提出し、企業側が受け取ったときに労働契約が成立すると解釈される場合もあります。
なお、厳密にいうと、内定における労働契約は、判例上、「始期付解約権留保付労働契約」という労働契約が成立する考え方が確立されています。
この「始期付」「解約権留保付」とは、判例で次のように整理されています。
- 【始期付】来年4月1日入社のように、就労の開始時期を決定すること
- 【解約権留保付】誓約書等記載の内定取消事由に基づく解約権を留保すること
具体的には、求職者が労働を申し込み、かつ企業が内定の最終意思表示をした段階、内定誓約書等を求めている企業はそれを求職者から受理した段階で、この「始期付解約権留保付労働契約」が成立すると考えられています。
(※参考)裁判所ウェブサイト:「最高裁判所判例集 大日本印刷事件 最判昭和54年7月20日」
※解約権留保付労働契約とは…入社予定日までの間に労働力提供のために必要な要件を内定者が満たせなくなった場合、会社側が労働契約を解約できる権利がある労働契約のこと。
内定取り消しが認められるケースの理由・条件
採用内定を取り消すことができるのは、採用内定当時に知ることができない、もしくは、知ることが期待できないような事実であり、その事実が内定取り消しの理由として客観的に合理的かつ社会通念上相当と認められるときに限ります。
以下、内定取り消しが認められる可能性が高い6つのケースについて解説します。
【1】内定者が契約の前提となる条件や資格要件を満たさなかった場合
「大学や専門学校を卒業できなかった」「入社の際に必要と定められた資格や免許を取得できなかった」など、契約の前提となる条件や資格要件を満たせなかった場合、内定取り消しが認められることがあります。
【2】内定者が傷病で働けなくなった場合
「病気になったことで長期間の入院が必要となり、通常の業務ができない」といった業務に支障をきたす問題が生じた際、内定取り消しが認められる可能性があります。
ただし、就業に差し支えのない範囲の病気やケガ、内定前から企業が健康問題を知っていた場合は内定を取り消せません。
【3】内定者が重大な虚偽申告をおこなった場合
採用の合否に直結するような重大な内容を詐称していた場合、内定取り消しが認められるかもしれません。
ただ、学歴や職位、資格といった経歴を詐称していたとしても、詐称の程度によっては取り消しが認められないため、注意が必要です。
【4】内定者が反社会的行為を犯した場合
内定後入社までの間に、「犯罪を犯した」「SNSで迷惑行為・誹謗中傷をした」「反社会的勢力と関わった」といった反社会的行為をおこなった場合は、内定を取り消せることがあります。
また、企業にとって重大な犯罪歴を詐称していた場合も取り消しの対象になるケースがあります。
【5】業績悪化により整理解雇が必要な場合
不況や企業の業績悪化により、人員削減をおこなうために解雇せざるを得なくなった場合(=整理解雇)、以下の4つの要件を満たせば内定取り消しが認められます。
1.人員削減の必要性
人員削減措置の実施が不況、経営不振などによる企業経営上の十分な必要性に基づいていること
2.解雇回避の努力
配置転換、希望退職者の募集など他の手段によって解雇回避のために努力したこと
3.人選の合理性
整理解雇の対象を決める基準が客観的、合理的で、その運用も公正であること
4.解雇手続きの妥当性
労働組合または労働者に対して、解雇の必要性とその時期、規模・方法について納得を得るために説明を行うこと
※厚生労働省「労働契約の終了に関するルール」より抜粋、一部編集
整理解雇はこれまで挙げたケースと違い、「会社都合」の解雇になります。企業は内定を取り消さなくても済むよう、いかに経営努力をおこなうかが大切です。
【6】誓約書等に定めた内定取消理由に該当した場合
企業が内定出しをした際、内定対象者から提出してもらう入社承諾書や誓約書に内定取消理由を定めることが一般的です。
「内定で労働契約成立!? 知っておきたい内定の法的効力」の章で解説したとおり、内定は判例上、「始期付解約権留保付労働契約」という労働契約が成立すると整理されています。このなかの「解約権」とは、予め誓約書等に定めた内定取消理由が発生した場合に、労働契約を解約する権利を意味します。この解約権による内定取り消しは、原則として適法です。
入社承諾書や誓約書の内定取消理由について詳しく知りたい方は、「内定通知書とは?採用通知書との違い【テンプレート付き】」の記事を参考にしてください。
【7】内々定など正式な内定に至っていない場合
「内定で労働契約成立!? 知っておきたい内定の法的効力」の章で説明した「始期付解約権留保付労働契約」は、判例上、求職者が労働を申し込み、企業が内定の意思表示をした段階、あるいは誓約書等を受理した段階で成立すると整理されています。そのため、内々定などのように、この条件を満たしていない場合は、内定取り消しが認められると考えられます。
採用内定の取り消しが認められないケース
原則、前章の理由・条件以外で内定取り消しは認められません。
正当性がない理由で内定を取り消した場合は違法となるため、内定取り消し無効や損害賠償リスクが生じるほか、社会的信用を損なう恐れがあります。ここでは、内定の取り消しが認められないケースを見ていきます。
【1】妊娠を理由とした場合
職務遂行に影響が出ない場合、「妊娠」を内定取り消しの理由にはできません。また、「妊娠したこと」を理由に内定を取り消すと、男女雇用機会均等法9条に違反します。
【2】特定の宗教に入信していることを理由とした場合
宗教や信仰は個人の自由です。これらを理由に採用の可否を決めるのは、差別につながります。
【3】夜の店でのアルバイト経験があることを理由とした場合
アルバイト経験が採用の可否に直結していない場合は、取り消し理由として正当と認められません。
【4】社風に合っていないことを理由とした場合
自社の求める人物像ではないと認識していた内定者に対して、「やはり社風に合っていない」として内定を取り消した場合、社会通念上相当であると認められず、採用取り消しは不当と見なされます。
【5】定員以上に採用したことを理由とした場合
会社都合で内定取り消しをおこなう際は、先程挙げた4つの要件を満たす必要があります。これらを満たせない場合は、内定を取り消すことはできません。
その他、内定の取り消しや延期について詳しく知りたい方は、次の日本労働組合総連合会のサイトをご参考ください。
(※参考)日本労働組合総連合会:「労働相談Q&A|2.採用内定取消・延期」
違法リスクや損害賠償も!?知っておきたい内定取り消しリスクや裁判例
ここでは、内定取り消しをおこなった際に企業側に生じるリスクと、不当な内定取り消しをおこなったことで裁判に発展した事例を説明します。内定取り消しを検討している採用担当者の方に、ぜひ一読していただきたい内容です。
採用内定の取り消しによって生じるリスク
内定取り消しによって企業側に生じる可能性がある主なリスクを3つ紹介します。
損害賠償・賃金相当額の支払い
裁判や労働審判で内定取り消しが違法だと判断された場合、企業側は損害賠償や賃金相当額を支払わなければならない可能性があります。
たとえば、当該内定者の悪い噂を聞いたからという理由で内定を取り消した行為が違法と判断された「オプトエレクトロニクス事件(東京地判平16.6.23 労判877-13)」では、次の転職先に就職するまでの2ヵ月半分の給与と慰謝料100 万円の支払いが命じられています。
企業名の公開による社会的信用の低下(内定取り消し企業の公表制度)
内定取り消しをおこなった場合、適切な職業選択に役立つよう、厚生労働大臣が企業名を公表する場合があります。これにより、企業イメージが低下し求職者から敬遠されるなど、採用活動に影響が生じるような直接的なダメージを受ける可能性があります。また間接的には、社会的信用の低下を招き、経営に影響する恐れもあるでしょう。
企業名を公表できるのは、厚生労働大臣が定める以下項目のいずれかに該当するときです。ただし、倒産により翌年度の新規学卒者の募集・採用がおこなわれないことが確実な場合は除かれます。
1. 2年度以上連続して行われたもの
2. 同一年度内において10名以上の者に対して行われたもの
※内定取消しの対象となった新規学卒者の安定した雇用を確保するための措置を講じ、これらの者の安定した雇用を速やかに確保した場合を除く
3. 生産量その他事業活動を示す最近の指標、雇用者数その他雇用量を示す最近の指標等にかんがみ、事業活動の縮小を余儀なくされているものとは明らかに認められないときに、行われたもの
4. 次のいずれかに該当する事実が確認されたもの
・内定取消しの対象となった新規学卒者に対して、内定取消しを行わざるを得ない理由について十分な説明を行わなかったとき
・内定取消しの対象となった新規学卒者の就職先の確保に向けた支援を行わなかったとき
※厚生労働省「新規学校卒業者の採用内定取消しの防止について(職業安定法施行規則の改正等の概要)」より抜粋、一部編集
社員の信頼喪失
不当な採用取り消しをおこなった場合、社員からの信頼度が低下する可能性も無視できません。「社員に対しても不当な解雇をするのでは」という疑念から、エンゲージメント低下や離職につながる事態も考えられます。
採用内定取り消しの裁判例【無効のケース】
次に、裁判で内定取り消しが無効と判断された事例を紹介します。
【新卒採用】大日本印刷事件
内定通知書を受け取り、誓約書を送った大学生が「グルーミー(陰気)な印象だから」という理由で採用が取り消されたものの、取り消しの理由が社会通念上相当と認められなかった事例です(最大判昭54.7.20)。
概要:
Aは、在学中に大学の推薦を得て応募した会社Bから内定通知書を受け取り、内定通知書に同封された誓約書を期日までに送付した。しかし、入社2ヵ月前に理由も伝えられないまま採用内定が取り消されたため、Aは取り消しは不当であるとして企業に従業員としての地位確認などを求めた。
状況:
採用内定通知以外に労働契約締結のための特段の意思表示をすることが予定されていなかったため、内定通知は求職者からの労働契約の申込みを承諾したことを意味する。AとBの間には、労働者からの誓約書の提出とあいまって労働契約が成立していた。
判決:
Bが取り消し理由として挙げていた「グルーミーな印象なので当初から不適格と思われたが、それを打ち消す材料が出るかも知れないので採用内定としておいたところ、そのような材料が出なかった」は、解約権留保の趣旨・目的に照らして社会通念上相当であると認められないため、内定取り消しは解約権の濫用に該当すると判決された。
※参考:
厚生労働省「裁判例」
公益社団法人 全国労働基準関係団体連合会「全情報」
中途採用】インフォミックス事件
採用取り消しの理由は客観的に合理的だと認められるものの、内定取り消し後の求職者への対応が不誠実であること、求職者に著しい不利益を与えたことから、社会通念上相当と認められなかった事例です(東京地決平9.10.31)。
概要:
大手コンピューター会社に勤務していたAが別会社Bにスカウトされたものの、採用内定を得た後に、経営悪化を理由に内定を取り消された。Aは内定取り消しは違法として地位保全(※)などの仮処分を申請した。
状況:
Bが入社の辞退を勧告したのは入社日の2週間前であり、Aは元いた会社の退職を取り消せない状態だった。
判決:
経営悪化は内定取り消しの客観的理由として認められるが、Aへの対応が不誠実であること、Aが著しい不利益を被っていることを考慮し、採用取り消しは違法と判決した。
※地位保全…雇用契約上の地位を仮に定めること
※参考:
厚生労働省「裁判例」
公益社団法人 全国労働基準関係団体連合会「全情報」
採用内定取り消しの裁判例【有効のケース】
次に、裁判で内定取り消しが有効と判断された事例を紹介します。
【中途採用】日本電信電話公社事件
違法行為を敢行した求職者を見習社員として雇用することは相当でなく、適格性を欠くと判断し、採用取り消しをしたことは客観的・合理的であるとし、内定取り消しが認められた事例です(S48.10.29大阪高判)
概要:
Xは、公安条例違反の現行犯で逮捕され、起訴猶予処分を受けたことから、公社Yから内定が取り消された。そのことを理由とする採用内定取消の効力を争った。
状況:
大阪高裁は、公共性の高い公社Yの見習社員として、適格性を欠く事由がある場合にも、採用内定を取り消しうるとして、Yの申立てを却下した。
判決:
公社Yが本件採用の取消しをしたことは、解約権留保の趣旨、目的に照らして社会通念上相当として認められることから、解約権の行使は有効と解すべきであると判決した。
※参考:
厚生労働省「裁判例」
公益社団法人 全国労働基準関係団体連合会「全情報」
内定取り消しは解雇!? 人事が知るべき内定取り消しに関する法律等
これまで説明してきたように、内定は労働契約が成立することから、企業による内定取り消しは解雇に相当するため、極めてハードルが高いものです。
ここでは、解雇に関する法令や企業が留意すべき事項を解説します。
労働契約法第16条(解雇権濫用法理)
まず第一に知るべきは労働契約法第16条(解雇)で、これは次のように定められています。
労働契約法第16条(解雇)
「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」
(※引用)eGov法令検索:「平成十九年法律第百二十八号 労働契約法」
つまり、企業が労働者を解雇する場合、その理由が「客観的」「合理的」であり、さらに社会常識に照らし合わせて誰もが妥当と認められなければ解雇はできないことを意味します。
この定めは元々、労働者保護の観点から判例で蓄積されてきた「解雇権濫用法理」という考え方です。このルールを明文化するため、2004年に労働基準法第18条の2に定められ、2008年には、現行の労働契約法第16条に移設されました。
解雇権濫用法理や労働契約法第16条のあらましを詳しく知りたい方は、次の厚生労働省の資料をご参考ください。
(※参考)厚生労働省:「労働契約法のあらまし」
労働契約法第20条(解雇予告)
解雇に関係する法律としては、労働契約法第20条(解雇予告)があり、次のように規定されています。
労働基準法第20条(解雇予告)
使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
② 前項の予告の日数は、一日について平均賃金を支払つた場合においては、その日数を短縮することができる。
③ 前条第二項の規定は、第一項但書の場合にこれを準用する。
(※引用)eGov法令検索:「昭和二十二年法律第四十九号 労働基準法」
つまり、労働者を解雇する場合は、原則として30日以上前までの解雇予告、あるいは30日以上の平均賃金を支払わなければなりません。ただし、30日前までに予告できない場合は、その予告できない期間に相当する賃金を補償(解雇予告手当)する必要があります。
解雇予告について詳しく知りたい方は、次の厚生労働省のサイトをご参考ください。
(※参考)厚生労働省:「労働契約の終了に関するルール」
労働省発職第134号(会社が留意すべき事項)
新卒採用をしようとする企業が考慮すべき事項として、旧労働省(現厚生労働省)は、1993年6月24日、労働省発職第134号によって「新規学校卒業者の採用に関する指針」を明示しています。
ここでは、内定に関する概要を次のとおり説明します。
採用内定について
内定をおこなう際、文書によって採用の時期や条件、内定取り消し事由等を示すとともに、内定は法的にも労働契約が成立したと認められることが多いことに留意すること。
採用内定取り消し等の防止について
企業は内定取り消しを防止するようあらゆる手段を講ずるものとし、内定取り消しは、客観的・合理的な理由なく、社会通念上相当と認められない限り無効とされる旨、十分留意すること。やむを得ず、内定取り消し・入社時期繰り下げを懸鼓等する場合は、公共職業安定所への通知とともに指導を尊重する。
(※参考)厚生労働省:「新規学校卒業者の採用に関する指針」
違法にならないための内定取り消し手順6つ
内定を取り消したい場合は、違法にならないように手続きを進めるとともに、求職者に納得してもらうよう努めることが大切です。ここでは、そのための内定取り消し手順を解説いたします。
【1】内定成立状況の確認
第一におこなうべきことは、対象者における内定成立状況の確認です。
具体的には、正式な内定によって、労働契約(始期付解約権留保付労働契約)が成立しているかを確認する必要があります。労働契約が成立していれば、これから説明する正式な解雇手続きや、損害賠償等の対応が必要になります。
内々定のように正式な内定でない場合は、労働契約が成立していないため、解雇手続き等の必要はありません。
【2】内定取り消しの正当性を検討
内定は、承諾された時点で労働契約が成立しているため、内定取り消しは解雇にあたります。
判例上、客観的に合理的かつ社会通念上相当である場合に限られているため、「内定取り消しが認められるケースの理由・条件」の章で説明したように、内定取り消しが可能なケースは極めて限定的です。
そのため、まずは前項までの内容を参考に、現在の状況から内定の取り消しができるかどうかを検討しましょう。
【3】専門家への相談・確認
内定取り消しは、実体的な内定の成立状況や事象によって、判断が変わります。
自社が内々定だと認識していても、正式な内定が成立していたなど、自社の認識が実体と異なることもあるでしょう。特に、業績悪化による整理解雇にあたる場合、「解雇回避の努力」がなされたかの判断については、社会情勢や労働政策なども大きく影響します。
他にも解雇の要件には専門的な判断を要する点が多いため、不明点は、弁護士や社会保険労務士などの専門家に相談したほうがよいでしょう。
【4】対象者への内定取り消し通知と補償・損害賠償の提示
内定取り消しができると判断した場合は、対象者への内定取り消し通知と補償・損害賠償の提示をおこないます。
内定者へは、内定取り消しの事情を説明し、企業側の事情による場合は、誠意をもって謝罪しましょう。
また、一方的な内定取り消しによって訴訟に発展してしまわないよう、補償・損害賠償を提示し、話し合いで合意できるよう交渉することが重要です。この交渉においても、専門家に判断を仰ぎながら対応してください。
【5】解雇予告手続き
内定の取り消しに正当性があったとしても、労働契約が成立している場合、内定取り消しは解雇と扱われます。
そのため、労働基準法第20条に基づき適正な手続きを取らなければ、違法となります。労働者を解雇する場合は、少なくとも30日前に労働者に予告しましょう。30日前に予告しなかった場合は、30日分以上の平均賃金を支払う必要があります。
【6】ハローワークへの通知(新卒の場合)
新卒者の内定を取り消した場合、ハローワークに所定の様式を使って通知する必要があります。
これは、職業安定法施行規則第35条第2項で義務付けられているため、忘れずにおこなってください。また、この通知の際に、内定取り消しについてハローワークから指導があった場合、その指導を尊重するよう務めてください。
【補足1】取り消し対象者に誠意を持って対応する
内定取り消しは学生本人やその家族に深刻なダメージを与えます。企業は、採用内定取り消しの対象となった求職者(学生)の就職先を確保するため最大限に努めるとともに、対象の求職者(学生)に対する補償金対応等に誠意を持って対応することが欠かせません。
これは、厚生労働省の「新規学校卒業者の採用に関する指針」に記載されています。
【補足2】 新卒者の採用内々定の取り扱いについて
正式内定通知前の「内々定」とその承諾は、採用内定とは違うものと考えられることが多いため、新卒者の内定取り消しを考える際は注意してください。
内定日よりも前の内々定の通知に承諾がされていたとしても、内々定と内定の時期が適切であれば労働契約は成立していないと見なされる場合が多いです。
ただし、労働契約が成立していなかったとしても、場合によっては求職者の期待権を侵害したとして、損害賠償義務が発生することがあります。
まとめ
不当な内定取り消しは、内定者と企業の双方がともにダメージを受けるものです。採用取り消しはセンシティブな問題になるため、不安なことがある方はぜひ専門家に相談してみてはいかがでしょうか。
内定を取り消す必要がない状況にいる採用担当者様は、これから企業都合による採用取り消しが発生しないよう、あらためて現在立てている採用計画を振り返り、必要に応じて手直ししてもよいかもしれません。
「採用戦略とは?使えるフレームワークや立て方、ポイント・注意点を徹底解説」では、採用戦略の立て方について説明しています。興味がある採用担当者様はぜひご覧ください。
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