要員計画とは?目的や種類、自社に適した立て方を徹底解説
適正な採用人数を決めるためには、要員計画が鍵となります。要員計画とはどのようなものなのでしょうか。
要員計画とは
要員計画とは、企業が事業計画を進める際に必要な人材の採用や配置、不要な人材の整理などを計画することを指します。要員計画があれば、どのような能力・適性がある人を何人採用するべきかを判断しやすくなるだけでなく、事業計画の遂行に役立ちます。
具体的な要員計画は下記のような表を作成し、状況を可視化するものです。
出典:日本の人事部「今日的な『要員計画』の考え方と実践方法 (後編)」~適正な「要員計画」の視点を持ち、一律のマネジメントから脱する
部門や役職、年度末在籍人数、年度当初在籍人数、要員要望数など、さまざまな要素を組み合わせて要員計画表を作成していきます。上記の表は「部門別」の要員計画表になるため、「年齢別」や「役職別」など、必要に応じてアレンジしてください。
作成時は、何人採用するかという「量」の部分と、どのような人材を採用するかという「質」の部分の両方を考慮することがポイントです。
要員計画と人員計画の違い
要員計画と同じものと認識されることが多い人員計画ですが、両者は異なるものです。
要員計画は、雇用形態別の人員数や人件費を考慮したうえで、事業計画の遂行に必要な人員数を計画することを指しますが、人員計画は事業計画の遂行に適した人材の要件を定め、誰をどこに配属するかを決めることを指します。
つまり、要員計画は「どの部署に何人必要なのか」といった人員に関する計画の枠組みを作るものであり、人員計画は「誰をどの部署に配属するのか」といった枠組みに社員名を埋めていくイメージです。要員計画をもとにしながら、人員計画を立てることになります。
要員計画と採用計画の違い
採用計画も、要員計画と混同されやすいかもしれません。
採用計画とは、事業計画の下、新たに採用すべき人員を計画するものです。要員計画は必要な人数の合計、採用計画は追加で補充する人数の合計であることに違いがあります。
採用計画は、中長期と単年度の2つの軸で策定します。なお、採用人数の決定方法は、各部門で必要人員を積み上げて算出する「積み上げ方式」、事業計画や総額人件費から必要人数を算出する「総枠方式」があります。
要員計画の目的・必要性
要員計画の目的は、自社の事業計画を遂行するために、必要な人材配置を明確化すること。もし、要員計画を立てていなければ、必要なときに必要な人材の配置ができず、事業計画の遂行が困難になります。特に、高度な人材が必要な場合は、人材の調達は難航するため、なおさらでしょう。
この人材配置を「要員計画」によってコントロールすることで、必要なときに必要な人材を配置することが可能になります。
知るべき要員計画2つの種類
要員計画は、事業計画に合わせて人材配置をコントロールする必要がありますが、どのように算出するのでしょうか?
ここでは、2種類の要員計画算出方法を解説します。
積み上げで導く「ボトムアップ方式」
ボトムアップ方式は「積み上げ方式」とも呼ばれ、現場の業務量や職務分析を踏まえて各部署・部門・職種に必要な人数を算出し、それを積み上げていくことで会社全体の人員総数を導く方法を指します。
一般的には、組織の最小単位である「課」を起点として、「課→部→事業部→会社全体」というように、ボトムアップで必要人員を積み上げて算出します。このようにボトムアップで算出することで、業務遂行に必要な人数を求めることが可能になります。
具体的な算出方法は、次章「要員計画の立て方・策定フロー」で解説します。
財政面から導く「トップダウン方式」
トップダウン方式とは、会社の経営戦略や事業計画の下、会社全体の「労働生産性」「労働分配率」「損益分岐点」「売上高」「付加価値」「人件費率」などを踏まえて適正人件費を算出し、そこから必要な人員総数を導く方法です。
この必要人員総数を求めたうえで、算出した必要な人員総数を各セクションやポジションに振り分けることで、職場ごとの人材配置を決定します。
こちらも具体的な算出方法は、次章「要員計画の立て方・策定フロー」で解説します。
要員計画の立て方・策定フロー
要員計画は具体的にどのように作成するとよいのか、順を追って説明します。
【ステップ1】現状を調査する
まず、事業計画や自社の人員構成、採用に関する過去の数値、要員ニーズといった採用人数を算出するためのデータ収集が必要です。調査対象となる項目を見ていきましょう。
事業計画
要員計画は前提として事業計画を遂行するために作成するものなので、事業計画の調査は不可欠です。
「人材」は事業計画を進めるために必要な要素のひとつであるため、採用人数や採用要件が事業計画に対して不適切であれば、事業計画の遂行は難しくなります。 事業計画に関わる社員や経営層とミーティングなどで目線合わせをすると、要員計画の作成がスムーズになるでしょう。上場企業であれば、IR関連情報の把握も有効です。
自社の人員構成
人員構成を確認するため、年齢、雇用形態、職種別に整理してみましょう。このとき、3年後、5年後の人員構成はどのように変化しているかもシミュレーションしてください。そうすると「5年後は20代が少なくなり年齢構成が偏る」といったことがわかるため、より的確な計画を立てられるでしょう。
さらに、能力やキャリア、経験など、個人に焦点を当てた情報を分類していくと、自社の状況により合った計画を作成できます。在職社員だけでなく、離職率の高低などのデータに着目することも忘れないようにしましょう。
採用に関する過去の数値
応募数・書類通過率・面接合格率・内定承諾率といった各採用プロセスにおける数値や、採用目標に対する達成率など、過去の数値を確認してみてください。
採用に関する過去のデータがあれば、書類選考、一次面接といった採用プロセスごとに「どれだけ通過者を出せばよいのか」という中間目標を踏まえて数値目標を設定することが可能になります。
加えて、書類通過率や内定承諾率など、各プロセスにおける通過率を算出しておくことで、どのプロセスで応募者が離脱しているのかを確認できるため、採用活動でネックになっているプロセスを把握できるようになります。
プロセスを加味すると、実現可能性が高い採用人数を考えることもできます。
現場の要員ニーズ
ヒアリングやアンケートなどの手段を使って、現場ごとの要員ニーズを収集する必要があります。情報収集をする際は、以下の項目を参考にしながらおこなうと、要員計画が作成しやすいでしょう。
- 欠員補充の要員ニーズはないか
他部署への異動や退職などで現場に欠員が発生したかどうかを確認します。あわせて、欠員が出たことにより業務に影響があるのか、影響がある場合は新たに採用する必要があるのかも確認してください。
- 繁忙期対策などによる要員ニーズはないか
繁忙期などの理由で、たとえば「データの入力や請求書作成といった定型的な業務を一時的に担える人材が欲しい」などのニーズが強まっていないか確認します。また、残業時間が増えていないか、休日出勤せざるを得ない状態になっていないかなどの勤怠リスクもあわせてチェックしましょう。
- 難易度の高いプロジェクトを進めるための要員ニーズはないか
プロジェクトを進めるために即戦力となる人材が欲しい、エンジニアやマーケターなど専門性が高い人材が欲しいといった要望がないか確認します。
経営の要員ニーズ
経営サイドからの要員ニーズについても把握しておくことが大切です。確認しておきたいポイントは以下のとおりです。
- 事業計画推進や新規事業分野進出のための要員ニーズはないか
事業計画の推進や新規事業分野への進出にあたって、新たな分野の知識や経験などが豊富な専門性の高い人材、ポテンシャルが高い人材を求めていないかを確認します。
- 人員構成の改善のための要員ニーズはないか
従業員の年齢や役職、スキルなどに偏りがあった場合、経営として是正する意向があるかどうかを確認します。
現状調査をおこなううえでのポイント
情報を収集する際は、「いつまでに、何を目的に、どのような仕事をおこなう、どういう人が、何人欲しいのか」を具体的に確認しましょう。
加えて、「必ず欲しい」のか「できれば欲しい」などの要望の強さも確認してください。各方面からの要望をそのまま受け入れて採用人数を設定してしまうと、人件費予算が不足する事態になりかねません。
人事担当者は、現場と経営の要員ニーズに対して緊急度・優先度を設けたうえで、どのような対応が最善なのか整理しましょう。採用しなくても異動などで対応できることもあるため、さまざまな角度で要望を検討することをおすすめします。
【ステップ2】必要な人数を算出する
必要な採用人数の算出は、「知るべき要員計画2つの種類」で紹介した「ボトムアップ方式」か「トップダウン方式」のいずれかの方法でおこないます。
ボトムアップ方式による算出方法
現場の業務量や職務分析をベースに、各部署・部門・職種に必要な人数を算出します。そして、各々の必要人数を積み上げて、会社全体の人員総数を求めます。
ここでは、必要人員の算出方法の一例を紹介します。
- 必要人員数=総業務量÷(1人当たりの業務量×所定労働時間)
各部署・部門・職種毎に、この計算式で必要人員数を求め、積み上げていけば必要人員の総数を算出できます。
トップダウン方式による算出方法
「労働生産性」「労働分配率」「損益分岐点」「売上高」「付加価値」「人件費率」などの指標を用い、全体の適正人員数を求めます。そして、この適正人員数をベースに、各部門に人員数を割り当てます。
ここでは、「労働生産性」「付加価値」を用いて、適正人員を求める方法を紹介します。参考にしてください。
企業が事業活動によって生み出した価値である「付加価値」を1人当たりの生産額である「労働生産性」で割り算することで、企業に必要な適正人員数を算出します。計算式は次のとおりです。
- 適正人員数=付加価値÷労働生産性
なお、付加価値の計算方法には、控除法(中小企業方式)と積上げ法(日銀方式)があります。使いやすい計算方法を用いるとよいでしょう。
- 控除法:付加価値 = 売上高 - 外部購入価値
- 積み上げ法:付加価値 = 人件費 + 経常利益 + 賃借料 + 金融費用 + 租税公課
双方の活用ポイント
2つの方法を簡単に説明すると、現場で必要な人数を算出するのがボトムアップ方式、会社全体で必要な人数を算出するのがトップダウン方式ということになります。
ボトムアップ方式のみで算出すると必要な人数が膨れ上がり、人件費などの費用がかかりすぎるリスクがあります。一方、トップダウン方式は売上や人件費などの財政面に重きを置くため、この方式だけで人員を算出すると現場が人手不足になり、業務遂行に支障をきたす恐れがあります。
そのため、状況に応じてボトムアップ方式とトップダウン方式の両方の活用が必要です。たとえば、経営状態が良好なときは、まずボトムアップ方式で算出し、その後トップダウン方式で問題がないかを確認する方法がよいでしょう。反対に経営状態が厳しいときは、トップダウン方式で算出してからボトムアップ方式で調整をおこなう方法が効果的です。
要員計画を効果的に運用するポイント
要員計画を踏まえて採用活動をしている(採用した)のに、「計画通りに採用できない」「採用した人員の力を存分に発揮させることができない」といった壁にぶつかり、「要員計画そのものに問題点があるのでは?」と疑問を抱くことがあるかもしれません。ここでは、要員計画が適切かどうかを確認する実際の運用方法のポイントをご紹介します。
要員計画と要員実績を比較・分析する
「要員計画通りに採用できなかった」と思ったら、要員計画と要員実績(実際に採用して割り当てることができた数値)を比較し、ギャップを確認することが重要です。
「部門ごとの要員実績」を「要員計画で設定した要員数」で割って要員比率を算出し、計画に対する実績の過不足をチェックするとギャップを把握できます。
数値のみで原因の判断はできませんが、あまりにもギャップがある場合は、そもそもの計画に無理があることなどが考えられます。
実情に即した採用人数を再設定するなどの対応を検討してください。
定期的なモニタリング
要員計画を最終的な目標に導くには、定期的なモニタリングが不可欠です。
人員数の充足度や計画の適正性などの「数」だけでなく、人材のパフォーマンス発揮度や人材育成の達成度などの「質」の面でも定期的にモニタリングします。毎年、このモニタリング結果をもとに施策の結果を分析し、継続的な改善をしていくことが要員計画を成功に導く重要なポイントです。
採用条件を見直して現場にヒアリングする
要員計画に沿って採用した人員が「期待したパフォーマンスを発揮していない」「早期離職が目立つ」などと感じた場合は、要員計画を構成する採用要件(能力や経験)、人員数などが適切だったかどうかを見直してみてください。加えて、組織を管理する社員や、要員計画によって異動した対象者に「人員配置の変更によって問題が発生していないか」をヒアリングすると、適材適所に配置できたかを見極められます。
定着・育成対策の並行実施
要員計画の下、必要人員を確保しても、社員の定着率が悪ければ結果として要員計画は達成できません。
そのため、要員計画を実施していくためには、採用活動と並行して、社員の定着・育成対策をおこなうことが不可欠です。離職率の推移や離職状況の実態を正しく把握し、採用から入社後に至るまで、どのフェーズに問題があるかを分析し、自社にあった定着・育成対策を実施します。
定着率の高め方を詳しく知りたい方は、「中途採用が定着しない理由は?離職防止に役立つ定着率の高め方を紹介」の記事をご参考ください。
要員計画の注意点
ここでは、要員計画の注意点を解説します。
安易に要員計画を変更しない
計画通りに要員管理が進まない際に、前述したような要因分析や現場ヒアリングをせずに要員計画を変更してしまうのは、やや軽率な対応といえます。
要員計画は、経営理念や経営計画を達成するために策定された計画です。安易に要員計画を変更すると、会社が目指している方向に進まないことを意味します。場合によっては、経営計画そのものを再考する必要性もあるかもしれません。
このように、要員計画を変更するだけでは、根本的な解決策にはならないケースにも注意が必要でしょう。
要員管理上困難な場面に直面した場合はまず、当初策定した要員計画と要員実績との間にあるギャップの原因を必ず確認しましょう。ギャップの大きさの度合いで、対処法を検討してください。
要員調整は中長期の視点で
必要人員を算出し、適正な要員計画を立てたとしても、短期的な視点で採用手段を決定してしまうと、中長期の事業戦略の遂行に支障が生じる恐れがあります。
たとえば、短期的には「即戦力が欲しい」とのことから中途採用の比重を高めてしまうと、「年齢構成が高くなってしまう」「企業文化が継承しにくい」といった理由から中長期的な人事戦略に悪影響が生じることがあります。
そのため、短期的な視点に捉われず、事業戦略に基づき、中長期的な視点で要員調整をおこなうことが大切です。
まとめ
本記事では、要員計画の目的や必要性のほか、算出方法や策定ステップ、効果的に運用するポイントなどをわかりやすく解説しました。
「要員計画」は、自社の事業戦略や計画を遂行するために、必要な人的資源を設計する重要なプロセスです。
本記事を参考に、自社に適した方法で要員計画を立案するとともに、計画だけで終わらせず、実行・改善のPDCAサイクルを回して要員計画を成功させてください。
よくある質問
要員計画とは何ですか?
要員計画とは、企業が事業計画を進める際に必要な人材の採用や配置、不要な人材の整理などの計画を指します。要員計画があれば、どのような能力・適性がある人を何人採用するべきかを判断しやすくなるだけでなく、事業計画の遂行に役立ちます。
要員計画の作成方法は?
要員計画の作成方法は、「現状調査」「必要な人数の算出」のステップでおこないます。
- ステップ1:現状調査
- ステップ2:必要な人数の算出
まず、事業計画や自社の人員構成、採用に関する過去の数値、要員ニーズといった採用人数を算出するためのデータ収集が重要です。次に、必要な採用人数をマクロ的手法のトップダウン方式と、ミクロ的手法のボトムアップ方式の2種類から算出します。
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