新卒採用における近年の内定辞退動向
労働人口減少を背景に売り手市場が続く近年の新卒採用。早期選考が進展する一方、年々、内定辞退率も高まっています。ここでは、新卒採用における内定辞退の推移や動向をみていきます。
内定辞退率の推移
就職みらい研究所(株式会社リクルート)の調査によると、就職内定辞退率の推移は、2024年卒では、3月1日時点で21.1%、6月1日時点で53.1%、10月1日時点で63.3%と内定解禁となる10月1日時点で、過半数を超える学生が内定辞退をしていることがわかります。
(引用・参考)就職みらい研究所(株式会社リクルート):「就職プロセス調査(2024年卒)「2023年10月1日時点 内定状況」」
内定取得者の就職活動実施状況
次に、内定取得者の就職活動実施状況を見ていきます。
就職みらい研究所(株式会社リクルート)の調査によると、内定取得者と内定未取得者を合わせた2024年卒における全体の就職活動実施率は、3月1日時点で88.2%、6月1日時点で45.6%、10月1日時点で10.4%と2023年卒と比較して同等の推移となっています。
このうち、2024年卒における内定取得者の就職活動実施率は、3月1日時点で77.9%、6月1日時点で34.2%、10月1日時点で4.9%との結果です。
内定取得後も採用活動を継続している学生は多く、6月以降もおよそ3割は内定出しをおこなったた学生において、内定辞退のリスクがあることが見て取れます。また、内定解禁後の10月以降は、内定式に参加し、入社意思を決定していることをうかがえる結果となっています。
(引用・参考)就職みらい研究所(株式会社リクルート):「就職プロセス調査(2024年卒)「2023年10月1日時点 内定状況」」
人事が知るべき新卒内定辞退理由ランキングトップ5
求職者が内定を辞退する背景には、選考の途中で企業や就労条件に不安を感じたり、考え方に変化があったりといった原因があります。ここでは、次の内定辞退理由ランキングの調査結果を踏まえて解説します。
【1】他企業の内定が決まった
【2】社風が合わない
【3】勤務条件が合わない
【4】志望業界・職種が変わった
【5】企業理解が進まないまま選考が進んだ
(※引用・参考)株式会社インタツアー(株式会社 PR TIMESのニュースリリース配信サービス記事より):【23~24卒 内定承諾・辞退の決定要因調査】23卒の75%は選考・内定辞退経験あり。辞退の決定的要因は「面接官の印象が悪い」
【1】他企業の内定が決まった(32.5%)
学生は、他社と併願して就職活動をおこなうことが一般的です。
業種や職種、勤務地などの条件に合う企業にエントリーし、選考を進めた結果、「他企業の方が魅力的」「自社の条件が合わない」などを理由に、他企業の内定が決まることが多いでしょう。
選考段階から学生のニーズを拾い上げ、「自社の魅力を訴求する」「学生が知りたい条件を説明する」など、学生を惹き付けることが重要です。
会社の魅力の出し方を詳しく知りたい方は、「会社の魅力を出すには?8つの切り口と魅力の見つけ方フレームワークを解説!」の記事をご参考になさってください。
【2】社風が合わない(27.4%)
自社のビジョンや働き方が、学生の価値観が合わない場合に発生することがあります。
たとえば、企業のビジョンや方針、働き方のスタイルが学生の考え方にマッチしていないことが挙げられます。募集段階から選考段階の過程で、採用ターゲットに自社の社風や価値観を訴求するよう、「先輩社員のインタビュー記事の掲載」「先輩社員との座談会」などをおこなうことが有効です。面接官の印象も大きく影響しますので、面接官トレーニングも重要になります。
面接官トレーニングを詳しく知りたい方は、「面接官トレーニングの目的と効果。いま面接官に必要なスキルとは?」の記事をご参考になさってください。
【3】勤務条件が合わない(13.9%)
勤務条件も、内定者の企業選びでは重要なポイントです。
ワークライフバランス志向の高まりから、「休日」「転勤・残業の有無」などの勤務条件は重視される項目ですので、募集要項に明記し、詳しく学生に説明してください。
自社に不利な内容であっても、募集・選考段階から説明することで、採用ミスマッチ防止や、学生からの信頼性向上が期待できるでしょう。
【4】志望業界・職種が変わった(9.3%)
学生が業界研究や企業研究を進めていくなかで、志望業界・職種が変わることもあります。
とくに、早期に内定取得している学生は、その傾向が多いでしょう。学生自身の考え方が変わることは致し方ありませんが、学生を惹きつけるため、自社の業界や会社を魅力的に打ち出すことが効果的です。定期的な内定者フォローで、自社の魅力を打ち出しましょう。
内定者フォローについて詳しく知りたい方は、「内定者フォローは何をやるべき?重要性や事例・便利なツールを紹介」の記事をご参考になさってください。
【5】企業理解が進まないまま選考が進んだ(5.9%)
企業理解が進まないまま選考が進んだ場合、自社への不安が高まり、志望度が下がることがあります。
このような状況の場合、学生が企業理解が深まっている企業に決めてしまうリスクもあるでしょう。業界や自社の概要・特徴などの情報提供や、自社の理念・仕事の深い理解ができるよう、選考段階に合わせた説明をすることが重要です。
選考の後半や内定出し後には、先輩社員座談会や職場見学など、社員との接点を設けることも効果的です。
検討の余地なく内定辞退される決定的要因
学生は、企業への志望度や社風、勤務条件などが自身にマッチしているかを判断し、内定辞退を決定していることを前章のランキングで確認しました。
しかし、こうした条件が学生にマッチしていても、次の場合は、検討の余地なく辞退されることがあります。
株式会社インタツアーの調査によると、「面接官の印象が悪い」が55.8%と過半数を占めており、「業務内容の詳細がわからない」が17.4%、「連絡時の対応が悪い」が10.7%と続いています。
この結果から、面接官の印象が悪いと、学生が自社にマッチしていると感じていても、検討の余地なく内定辞退される可能性が高いことがわかります。このような事態に陥らないよう、面接官トレーニングを実施することが重要です。
面接官トレーニングを詳しく知りたい方は、「面接官トレーニングの目的と効果。いま面接官に必要なスキルとは?」の記事をご参考になさってください。
(※引用・参考)株式会社インタツアー(株式会社 PR TIMESのニュースリリース配信サービス記事より):「【23~24卒 内定承諾・辞退の決定要因調査】23卒の75%は選考・内定辞退経験あり。辞退の決定的要因は「面接官の印象が悪い」」
内定辞退理由を聞かれたら学生はどう対応する?企業が知るべき学生の思考
学生が内定辞退をする際、必ずしも内定辞退理由を企業に伝える必要はないため、シンプルに内定辞退の意思を伝えてくることが一般的です。
企業から内定辞退理由を確認された場合、学生は、内定辞退理由を聞かれても、自社にとってネガティブな理由であれば、ストレートに伝えにくいものです。「検討した結果、他社に決めさせていただいた」など、差し障りがない回答をされるケースもあるでしょう。今後の採用活動に活かすために内定辞退理由を確認する場合は、学生の心理的負担が生じない範囲で、学生の考えを聞き出すことも有効です。
内定辞退率を下げるために取り組むべき対策9選
内定辞退率を下げるためには、内定者へのさまざまなフォローが重要です。ここでは、内定辞退の防止に役立つ9つの取り組みとポイントを解説します。
【1】職場見学の実施
【2】社内報の送付
【3】内定者研修の実施
【4】内定者アルバイト・体験入社の受け入れ
【5】内定式の開催
【6】社員との座談会の開催
【7】経営陣との交流会・セミナーの実施
【8】e-ラーニングの導入
【9】面接官トレーニングの実施
【1】職場見学の実施
入社後に実際に働く職場を見学してもらうツアーを実施し「イメージしていた職場環境と違う」というギャップを小さくします。特に近年ではオンライン面接の実施により、職場を見ずに内定が決まるケースもあります。入社前の職場見学は、働く環境への不安を払拭し、内定辞退防止に有効です。
また内定者の近い将来の姿である先輩社員を見せると、働くビジョンを明確に持てます。担当者の対応や社内の雰囲気の悪さを内定辞退の理由として挙げる声もあるため、活気のある職場か、挨拶は行われているかなども重要なポイントとなります。
【2】社内報の送付
社内報は、企業が力を入れている取り組みや、働いている社員の考え方、ちょっとした社内ニュースなど、内定者が企業を身近に感じながら社風に触れられるツールです。
内定者はまだ企業の「外側」の人間ですが、社内報を通じて企業の「内側」を見てもらえます。企業の一員としての自覚を持ってもらいながら、入社へのモチベーションを高めます。
【3】内定者研修の実施
内定者向けの研修は、社会人として知っておくべきマナーや仕事における基本のスキルを身に付ける場です。入社に向けた準備段階のイベントであるため、企業に所属する意識を改めて持ってもらえます。
また内定者同士でコミュニケーションをとりながら研修に取り組むことで、同期との仲間意識を高める効果も期待できます。
【4】内定者アルバイト・体験入社の受け入れ
内定者アルバイトや体験入社は、先輩社員と一緒に働きながら実際の仕事やチームの役割を理解し、入社意欲を高められます。短時間の体験であっても、説明や見学よりも業務への理解を深める効果が期待できます。
また「この会社に決めていいのか」「自分に仕事が務まるのか」という漠然とした不安を持っている内定者が、実際の業務に関わることで入社後の具体的なイメージを持てるようになり、内定承諾につながります。
【5】内定式の開催
内定式は、内定者にとって他支社や違う部署の同期と顔を合わせる重要な機会です。一緒に働く同僚とコミュニケーションをとる機会を作ることで安心感を持ってもらえます。さらに、良きライバルとなりそうな相手との出会いによって、より入社への熱意を高める効果も期待できます。
また、内定式は企業の理念や社風を経営陣から語る場でもあります。いくつもの企業で選考を受けてきた内定者に対して自社のビジョンを改めて認識してもらうためのコンテンツの用意が重要です。
【6】社員との座談会の開催
座談会は、先輩社員とのカジュアルな交流を通して、不安に思っていることを相談してもらう場です。業務内容や職場環境のほか、新人だったころの話や仕事の楽しい面などを語ってもらうと、内定者が自身の働く姿をイメージできます。
先輩社員をアサインする際は、内定者と出身大学が同じ、目指すポジションが同じなど、共通点を持った人材を選ぶよう工夫が必要です。
【7】経営陣との交流会・セミナーの実施
企業トップとの交流会やセミナーを通して、企業理解を深めて入社後の期待値を高めます。説明会や面接でも選考担当者から企業理念や事業の展望、新入社員への期待を説明しますが、改めて経営陣から直接説明することで、内定者の企業に対する安心感を持ってもらえます。
トップが一方的に話すだけでなく、内定者からの質問や相談にも応じると、お互いの認識のすり合わせや不安の払拭に効果的です。
【8】e-ラーニングの導入
自宅でも実施できるe-ラーニングは、社会人としてのマナーや業務上の基本知識を入社前に学べる便利なツールです。e-ラーニングでの学習によって入社前から業務理解を深めてもらうと、入社後の教育にかかる時間の短縮が期待できます。
【9】面接官トレーニングの実施
面接官トレーニングでは、面接における適切な言葉遣いや態度を担当者に教えます。例えば、パワハラ・セクハラ・オワハラに当てはまる言動はないか、NG質問をしていないかなどの内容です。
内定辞退の理由の中には、社員の対応や面接官の態度なども挙げられています。職場の活気も内定者によっては重視するポイントのため、気持ちのいい挨拶や対応を心掛けるよう、社内全体の姿勢を見直す必要もあります。
内定辞退を防ぐ企業の事例
内定辞退を防ぐため、多くの企業でさまざまな取り組みが実施されています。ここでは、企業での取り組み事例を3つ紹介します。
SanSan株式会社
SanSanは、候補者一人ひとりの志向性に合わせた選考体験を設計することで、採用難易度が高いとされる新卒エンジニア採用を成功へと導きました。同社では以前、メガベンチャー企業や外資系IT企業などの競合他社への内定を理由に、内定辞退が相次いでいました。そこで就活生が重視しているポイント、自社に期待している点と今足りていないことを設計した上で、個々へのアクションを行い、人材確保へとつなげました。
企業と求職者が気軽にコミュニケーションをとれるビジネスSNSを活用して、新卒スカウトにも積極的に取り組んだ結果、内定辞退の防止に役立っています。
MHソリューションズ株式会社
内定辞退者の多さから内定者フォローに課題を感じていたMHソリューションズは、SNS機能がついた教育アプリを導入しています。内定者が同期とコミュニケーションをとりながら、入社前に身に付けておきたい「身だしなみ術」「電話対応」「論理的思考力」など、あらゆる研修をモバイルで受けられます。
内定者それぞれの学習状況を共有することで、ライバル意識・仲間意識を持たせる狙いもあります。導入後には内定辞退の大幅な減少を実現しました。
マルホ株式会社
マルホでは、内定者に対する情報発信ツールを導入し、入社前の不安の払拭に役立てています。仕事に関わる免許取得の支援や社宅制度などのあらゆる情報を開示し、気軽に相談できる環境を整備しています。また以前の内定者へのアンケートの結果を取り入れながら情報発信の形式を変えるなど常にアップデートを図っています。
内定者向けに行っている他の取り組みとして、「選考結果の個別フィードバック」があります。個別フィードバックを通じて、面接の中で感じた印象や強み、また今後クリアしてほしい課題などを一人ひとりに伝えることで、入社を迷っていた内定者の入社意識を高める効果がありました。
まとめ
内定を辞退する背景には、さまざまな理由があります。企業が提示する条件と求職者の希望が合わない場合、選考を重ねていく中で丁寧にすり合わせれば齟齬を防げます。また内定後のきめ細かいフォローの実施も、内定辞退防止に効果的です。
企業の事例を参考にしながら、自社に合った対策を行うことが重要です。
内定辞退防止に効果的な「自社の魅力」とは何かを整理するためのワークシートもございます。ダウンロードいただき採用活動時にお役立てください。
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