新卒採用に不可欠な大学訪問とは?
労働力不足を背景に、ますます激化する採用市場。このような環境下、安定した大学からの紹介を見込める大学訪問が注目されています。
ここでは、大学訪問の概要や目的、実施時期について解説します。
大学訪問とは?
大学訪問とは、企業が特定の大学に訪問し、企業PRや求人情報の提供を行うこと。
大学のキャリアセンターや教授にアポイントをとり、定期的に訪問します。定期的に訪問することで信頼関係を醸成し、「大学からの紹介」という新卒採用のルートを構築することが可能です。
とくに理系学生は、教授とのつながりが深く、理系学生獲得に大学訪問は有効でしょう。
大学訪問の目的
大学訪問は、大学との信頼関係を構築し、定期的に求職者を紹介してもらうことが大きな目的です。
信頼関係を構築しておけば、自社のターゲットとなる学生に早期のアプローチが可能です。大学のキャリアセンターや身近な教授を通じることで、効果的にアプローチをすることができます。
信頼関係を構築できれば、学内説明会を定期的に実施でき、大学における自社の母集団形成にもつながり、安定的な新卒採用ルートを構築することが可能でしょう。
考慮すべき大学訪問の時期
大学訪問は、実施時期が決められているものではありませんが、基本的には2~3月頃に行うと良いでしょう。
その時期とする理由は、学内合同企業説明会の実施前が望ましいためです。
大学訪問後、すぐに行える効果的なアクションは、学生合同説明会への参加が考えられます。しかし、2021年以降、政府が主導する就活ルールでは、3月が広報解禁となっていることから、一般的には学内合同説明会は3月に実施していることが多いです。
そのため、大学訪問は2~3月に行うことが良いと考えられます。ただし、学生の動向や学校行事等も考慮するよう、留意してください。
キャリアセンターを味方に!大学訪問の流れ
大学訪問は、大きく準備・訪問・お礼の流れで進めます。採用活動を目的とした大学訪問は一度きりではなく継続的な接触が必要なため、基本的に対面したときに次回訪問の話題をあげ、具体的なスケジュール調整につなげるようにしましょう。初回の訪問とその年の採用活動が終了したタイミングでは、特に丁寧にお礼を伝え、適切に報告を行うことが大切です。
採用ターゲットの設定
どのような採用活動にも共通する点になりますが、まずは採用ターゲットを具体的に設定します。すでに出身大学や学部、志向性などを含めたターゲット像(ペルソナ)ができている場合は、そのまま大学の選定に移りましょう。
ターゲット像に盛り込むべき具体的な項目には、以下のようなものがあります。
- 出身大学、学部学科
- 専攻分野、得意分野
- サークル活動や部活動での役割、立場
- アルバイト経験を通じた学び
- 募集職種で望ましい性格、価値観、経験
訪問する大学を選定
ターゲット像が確定したら、実際に訪問する大学を選定します。
初めて大学訪問を行う場合は、2~3校厳選してノウハウの蓄積に努めましょう。最初から対象校が多すぎると連絡の抜け漏れなどミスが発生するリスクがあり、1校のみにしてしまうと比較対象がなく改善や対策を打ち出しにくくなるためです。
訪問対象としては、自社の若手社員の出身大学、会社の所在地に近い地元の大学、事業分野に関わる専攻がある大学などが良いでしょう。既に大学訪問を行っている場合、採用状況を踏まえて継続・中止・新規訪問の必要性を検討してください。
訪問のアポイントを取る
訪問先を決定したら、大学の就職支援課やキャリアセンター、理系学部であれば研究室の教授にアポイントを取りましょう。就職支援課などのホームページに「企業向け情報」として訪問や求人紹介の申し込み案内が記載されていますので、必ず確認し、指定の方法で申し込むようにしましょう。
以下、メール(申請フォーム)、電話それぞれのアポイント例を紹介します。申請フォームの場合は項目が決まっており文字数の制限もあるため、簡潔な内容で問題ありません。
アポイントのメール例文
【件名】
就職支援課ご訪問のお願い|株式会社◯◯採用担当【本文】
◯◯大学 就職支援課
ご担当者様(相手の名前がわかる場合は記載)突然のご連絡恐れ入ります。
株式会社◯◯ 採用担当の佐々木と申します。このたびは貴学の学生さんに当社求人のご案内をさせていただきたく、ご連絡差し上げました。つきましては、一度就職支援課にお伺いし、ご挨拶をさせていただけないでしょうか?
当社では貴学出身の入社2年目、5年目の社員が活躍しております。両者ともリーダーシップが強く、今年もぜひ貴学より学生さんを採用させていただければと存じます。まずは就職活動に関わる情報交換をさせていただけますと幸いです。
◯月1日~5日で20分程度お時間をいただきたく存じますが、ご都合いかがでしょうか?
難しい場合、候補日をご提示ください。今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。
(署名)
メールを見逃されないよう、件名には必ず訪問希望の旨を記載しましょう。その大学出身の社員がいる場合その社員が好印象であることに言及すると、「ぜひ今年も採用したい」という内容の説得力が増します。長くなりすぎないよう、採用サイトのURLを署名欄に記載するなど工夫し、すっきりした文面の作成を心がけましょう。
アポイント電話のトークスクリプト
お世話になっております。
◯◯株式会社 採用担当の佐藤と申します。
このたびは貴学の経済学部からぜひ学生さんを採用させていただきたく、ご連絡いたしました。つきましては、一度就職担当課の□□様にご挨拶に参りたく存じますが、ご都合いかがでしょうか?(担当者が不明な場合や、予約日程が大学のサイトに掲載されている場合)
このたびは貴学の経済学部からぜひ学生さんを採用させていただきたく、ご連絡いたしました。つきましては、◯月1日、2日のいずれかでキャリアセンターにお訪ねしたく存じますが、ご都合いかがでしょうか?―訪問OKの場合
ご多用中ありがとうございます。それでは◯月2日の14時にお伺いしますので、どうぞよろしくお願いいたします。―都合が合わない場合
かしこまりました。それでは一旦会社資料を(メールで)お送りいたしますので、ご覧いただけますと幸いです。後日改めてご訪問のご相談をさせていただきます。
大学訪問に限らず、相手の時間を拘束する電話では、簡潔に用件を伝えることが大切です。
その際、会社名や事業を端的に説明する以外のアピールは不要です。
教授が就職支援担当を兼任しているなど、多忙で都合が合わない可能性も大いにあります。「大学側の都合を無視する企業」というイメージを持たれないよう、相手の状況を尊重したやりとりをしましょう。
訪問前にやること
訪問前には、訪問する大学や学部の下調べや、自社に勤務するOB・OGの情報を整理しておくことが重要です。
大学や学部の下調べ
移動時間には、アポイントに遅れないように、必ず学内での移動時間を考慮に入れてください。
郊外の大学の場合、学内でも移動時間に時間がかかることが多く、アポイントに間に合わないといったことも考えられます。とくに、同じ大学内でキャリアセンターや各学部の教授に訪問するなど、移動が多く発生する場合は、注意が必要です。
また、大学や訪問する学部・学科の特徴もしっかりと押さえましょう。とくに、教授に訪問する場合、「自社の事業や募集職種」と「学部・学科」の関係性をとらえておくようにすることが重要です。
初めて訪問する教授とのアポイントでは、「なぜ、この学部・学科に訪問したか」「学修内容と事業内容がどのようにリンクしているか」など聞かれることもあります。どうして、その大学・学部・学科に訪問するか、目的を明確にして訪問しましょう。
大学のOB・OG情報整理
キャリアセンターや教授に訪問する際、OB・OGの情報を聞かれる場合があります。大学としては、OB・OGがいる企業であれば学生に紹介しやすいため、OB・OG情報を聞くケースがあるのです。
また、教授に訪問した場合は、学科のOB・OGが教授の教え子であるケースもあり、話題として触れられる可能性もあるからです。教授はOB・OGとして自社で働いている教え子が元気に働いているか、活躍しているかなど聞くケースもあります。
自社に大学のOB・OGがいた場合、OB・OGの状況を詳しく伝えることで、より大学訪問の効果を上げることが可能です。
訪問時にやること
訪問時には、採用に関する情報提供や、大学の担当者の質問や要望への対応、求人票設置や学内説明会の参加申し込みなどについて話しましょう。約束の時間にもよりますが、一度で多岐にわたる話題を話し合うことは難しいため、メインの目的を決めておくようにします。
初回は挨拶と求人票の設置、二回目は状況伺いと学内説明会申し込み、三回目は学内説明会前後の打合せなど、採用スケジュール上のポイントを押さえつつ、項目を絞ります。求人票送付はホームページから申し込むケースもあるので、訪問時に大学の担当者に二度手間をとらせないよう、気をつけましょう。
特に人気のある大学では訪問企業も多く、希望する時期や回数での訪問ができないこともあります。学内説明会に参加できなかったり求人票設置が遅れたりすると、学生へのアプローチが出遅れてしまいます。Webサイトやメールでできることは先に済ませ、訪問では学生のニーズのヒアリングなど対面で行うべきことに集中できるようにしておくのが賢明です。
訪問時の持ち物リスト
大学訪問の際は、PCなど通常の外出時の用意に加え、採用の説明に必要なものを持参しましょう
- 求人票
- 会社案内(企業紹介)
- 採用パンフレット
- ノベルティ(企業名入りクリアファイル、ボールペンなど)
お礼の挨拶
通常のお礼は訪問後にメールで送り、その年の採用活動が完了したときは、報告を兼ねてお礼の挨拶に向かいましょう。翌年以降の採用活動にもつなげられるように、たとえ採用人数がゼロだったとしてもきちんとお礼をするのが重要です。
大学と信頼関係を構築し、学生に就職先候補として検討してもらえるようになるまで、時間がかかることもあります。単発で考えず、採用活動全般と同様に長期的な視野をもって臨みましょう。
採用難の今、大学訪問のメリットは大きい
売り手市場が続き若手人材の獲得が難しくなっているいま、企業が大学訪問を行うことで以下のようなメリットが期待されます。
新卒採用の手法として比較的低コスト
合同説明会などの出展と違い、大学訪問においては会場代などの費用がかかりません。スケジュール調整や申請の手間はかかりますが、学生の生の声を知っている大学の担当者とコミュニケーションをとるメリットを考えれば、大きなデメリットではないでしょう。
中小企業でも学生にアプローチできる
中小企業は大手企業と違い、なかなか学生に注目してもらいづらいケースがあります。しかし、キャリアセンターにアプローチすることで、中小企業でも学生にアプローチすることが可能です。
ここでは、中小企業が学生にアプローチするための大学訪問の方法を解説します。
キャリアセンターにおける未内定学生への支援状況
就職みらい研究所(※)の調査によると、「未内定学生への個別企業の案内」をしているのは86.7%と、大半のキャリアセンターが未内定学生へアプローチしていることがわかります。
アンケート内容から、キャリアセンターが学生の人物像や希望条件を考慮し、キャリアセンターにアプローチされた求人情報をマッチングして、学生にアプローチしていることがわかります。
また、「進路確定状況および未内定学生数を把握し始める時期」は、全体で6月以前が39.6%と最も高く、次いで7月が27.2%、8月が6.9%と続き、11月には1.5%と急激に落ち込みます。
このことからキャリアセンターは、大学4年次の6月以前から10月にかけて、未内定者の学生を支援していることがわかります。
就職活動における情報入手先として大学のキャリアセンターや就職課を利用する学生は53.1%(※)と、半数を超えています。
そこで求人票を提供していたり、大学の担当者から学生に取り次いでもらえたりすると、就職先として考えてもらえるチャンスがぐっと拡大します。
(※参考)株式会社リクルート「就職みらい研究所」:「大学のキャリア・就職支援状況に関する調査」
企業から大学へ提供すべき情報
これは、中小企業に限りませんが、大学訪問時は大学が提供してほしい情報を届けるべきです。
中小企業で学生からなかなか注目されにくくても、大学がほしい情報を提供することで、キャリアセンターにおいて、未内定学生にアプローチする際のマッチングが容易になります。
調査結果(※)によると、主に次のような項目があげられています。
- 採用継続情報の更新
- OB・OG情報
- 入社後の具体的なキャリアパス
- キャリア形成の考え方や支援法
- 青少年雇用情報シートの内容
- キャリア形成支援に関する情報
なかには、良いことだけでなく課題面もあげてほしいといった意見も見受けられます。情報を多く持ち寄ることで、学生へのマッチング率を引き上げることができるでしょう。
(※参考)株式会社リクルート「就職みらい研究所」:「大学のキャリア・就職支援状況に関する調査」
中小企業がキャリアセンターにアプローチする必要性
中小企業は大手企業と違い、学生に注目されにくいことが大半です。いくら採用広報をしても、実りにくいケースもあるでしょう。
ここまで説明してきたように、キャリアセンターにアプローチすれば、大学側で学生にアプローチしてもらえる可能性があります。このように、プル型ではなくプッシュ型の採用活動も可能になるメリットは大きいでしょう。
特に、地元の学生からの応募を増やしたい中小企業の場合、大学訪問、学内説明会の参加や求人票の設置は非常におすすめです。地方の学生が都市部の企業を見ている可能性は高いですが、主要な相談先である大学に求人情報を提供することで、認知されやすくなります。
就活サイトや合同説明会ではどうしても有名な大企業が目立ちますが、大学職員を通すキャリアセンターなどでは、これとは違った存在感を示せるのではないでしょうか。
大学との信頼構築で採用自由化に対応
2019年4月に経団連が通年採用の拡大を表明しており、採用活動(就職活動)は今後ますます多様化すると考えられます。しかし学生は就職活動シーズンが拡大・通年化することを必ずしも歓迎しておらず、年中就職活動をすることになるのではと抵抗もあるようです。
そのような中、大学とコミュニケーションを深めることで他の企業より早く情報を提供できたり、学生のニーズを確認して不安を解消するような場を設けたり、双方にとって効果的な採用活動を実現しやすくなります。
3.大学訪問成功のポイント|疑問をまとめて解消
最後に、大学訪問時に知っておきたい疑問にお答えします。
大学訪問に手土産は必要?
国立大学の場合、賄賂とみなされてしまう懸念があるため、企業ノベルティなど採用ツール以外の手土産を渡すのは控えましょう。
私立大学の場合は、数千円程度のお菓子など無難で高額すぎないものにとどめ、初回訪問やお礼の訪問でだけ持参するなど、不自然でない範囲で個別に判断しましょう。
大学訪問はいつすべき?
採用自由化や採用手法の多様化から、「大学訪問は◯月がベスト」といった特定のタイミングはないと考えていいでしょう。学内説明会の期日や、自社の採用活動のスケジュールに照らし合わせ、実務がスタートするときには初回訪問を終えているように計画することをおすすめします。
理系学生を採用したいときは?
理系学生の場合、大学全体の就職支援課ではなく、研究室の教授が就職支援担当として窓口になっています。就職支援課などで取り次いでもらったり、研究室に連絡を入れ秘書の方に伝言を頼んだりしてアポイントをとりましょう。
信頼関係を構築するには?
キャリアセンターや教授との信頼関係を構築するには、同じ採用担当者が継続して訪問することが重要です。
訪問し続けるうちに顔を覚えてもらえ、有益な情報交換をすることが可能になります。ゆくゆくは、学生を紹介してもらえることも期待できます。
初めて訪問した大学で効果を上げるには?
訪問後、お礼をすることはもちろん、採用活動終了後にも、効果を上げるポイントがあります。初めて訪問した大学の学生を採用したときがそのチャンスです。
可能であれば、OB・OGを連れてお礼を兼ねて訪問すると、信頼関係を深めることができるでしょう。OB・OGを連れて行けなくても、報告がてらに訪問、あるいは電話連絡を入れるなど、適宜実施しましょう。
まとめ
大学訪問を通じて学生に自社を知ってもらうことは、採用活動における大きなチャンスになります。大切なのは、企業とは事情の異なる大学側の状況に配慮し、長期的に関係を構築することです。学生の採用に悩んでいたら、一つの手として大学へのアプローチを考えてみてはいかがでしょうか。
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