採用広報とは?
採用広報は、商品やサービスの存在ではなく、「就職先としての魅力」を多くの人に知ってもらう、いわば採用活動の土台づくりになる取り組み。まずはその必要性を理解することが大切です。
求める人材の応募を促進するための広報
採用広報とは、求める人材からの応募を促進するための広報活動です。どのような媒体を選ぶかに関わらず、採用につなげることを目的とした情報発信であれば、採用広報に含まれると考えてよいでしょう。
消費者や顧客、取引先などステークホルダーに向けて商品やサービス、IR情報を伝えるための企業広報とは性質が異なるため、ターゲット設定や発信内容を精査する必要があります。
採用広報の重要性
ここでは、採用広報の重要性を説明していきます。
すぐに成果が出るとは限らない長期施策
採用広報は短期間で成果を出すことが難しいため、「急募のポストへの応募につなげる」といった狙いでスタートさせることはおすすめできません。適切なコンテンツを発信するためには、経営者から現場の社員まで社内各所の協力を取り付け、全社的に方向性を一致させなければなりません。
また、採用広報はあくまで応募やマッチングを増やすための入り口です。選考への橋渡しとなるよう、適切な目標や期間を見極める必要があります。社会情勢や市場のトレンドにも影響を受けるため、長期的な試行錯誤を要する可能性がある点を認識しておきましょう。
売り手市場の採用難対策には不可欠
すぐに効果が出ない施策であるにも関わらず、採用広報の重要性が高まっている背景には、近年の採用難が影響しています。
リクルートワークス研究所「ワークス大卒求人倍率調査」によると2022年卒、2023年卒の大学(院)卒求人倍率はいずれも1.50倍、1.58倍と、コロナ禍前と比較して、新卒採用意欲は回復傾向が見られています。また、300人未満の企業では、コロナ禍の影響で2021卒に3.40倍まで落ち込んだものの、2023卒では5.31倍と上昇しており、依然として、知名度や資金力がある大企業と比べて人材確保が極端に困難な状況が続いています。
新卒一括採用から中途採用へシフトする動きもありますが、2022年上半期では、中途採用で必要な人数を確保できなかった企業が2013年度以来最高となるなど、年齢や経験に関係なく採用難であることがうかがえます(同「中途採用実態調査」)。
少子化により採用難が自然に解消する見込みがないなかで、貴重な人材を確保するためには、採用広報を通じて効率的にターゲットに自社の情報を届け、興味を持ってもらうことが不可欠です。
飾らない情報発信が求められている
企業がWebサイトやSNSを運用するのが「当たり前」になっている現在、会社の理想だけを見せる情報発信ではなく、等身大の飾らない情報や本音の発信が求められています。
昨今のコンプライアンス意識の高まりから、ユーザー(読者)は実際の労働環境と異なる職場の見せ方や、パワハラや休暇の取得拒否といった法律違反の可能性がある「ブラックな情報」に敏感になっています。透明性の高い情報発信は、ユーザーやそのなかにいる求職者の支持を得るための大前提です。
SNS普及、価値観の多様化の影響
さらに、情報へのアクセス方法が変化したことも影響しています。
SNSで誰でも匿名で情報発信できるという状況から、企業の評判や口コミの投稿も非常に多くなっています。そのため、「求人票には書かれていないが、実際は長時間労働が常態化している」といったマイナスの情報を求職者が見つけることも容易です。社員や関係者の不満・不安の声を無視してよい面だけを発信していると、いずれは実態とのギャップが明るみに出てしまい、企業イメージ低下の原因になります。
また、働くことに対する価値観も時代とともに変化しており、求職者が仕事を選ぶ基準が多様化し、「自分に適した会社はどこか?」という視点で企業情報を調べるようになりました。求職者の価値観に自社がマッチしていることが伝わるよう情報発信を充実させるのは、関心を持ってもらうために効果的です。
採用広報をおこなうことで得られるメリット
では、採用広報をおこなうことで具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。
応募数、採用数の増加
まず挙げられるメリットに、応募数や採用数の増加があります。
採用広報をおこなうことで母集団形成を強化し、認知度を高めることで関心を持つ人の数を増やせることによるメリットです。消費者向けの広報の場合は対象者が幅広く、反響を得られても採用に結びつくとは限りませんが、採用広報では発信内容やターゲットを限定しているため興味を持ってもらいやすく、効率がよいという利点もあります。
内定承諾率の向上
採用広報で会社の情報を周知することは、内定承諾の後押しにもつながります。
このメリットは、特に新卒採用において強みになります。転職者はすでに業界への理解があり、年収などの条件面も重視する傾向にありますが、これから社会人になる学生にとっては業務内容や職場の雰囲気など、判断材料は企業が発信する情報が頼りです。コーポレートサイトに概要が記載されているだけの会社よりも、事業方針や実際に働く社員の様子などが伝わってくる会社のほうが、学生にとって安心感があるのはいうまでもありません。
将来的な離職率の低下
採用広報の間接的なメリットは、情報発信により入社後のギャップを軽減させる助けになるという点です。会社のよい面と課題の両方をオープンに発信していれば、「入社してみたら思っていたのと違った」といった不満は生まれにくくなります。
会社への不満や不信感は離職を検討する要素になり得ます。広報を通じて企業のアカウンタビリティを果たすことで、従業員エンゲージメントが高まり、結果としてリスク軽減につながるでしょう。
既存採用チャネルの効率向上
採用広報により、既存の採用チャネルにおける効率の向上が期待できます。
具体的には、採用広報によって自社の存在を広く周知することで、自社の認知度を高めることが可能です。さらに、採用ターゲットが欲する情報の詳細な開示により、企業理解や自社の価値観への共感を促進させ、求職者の心理を「認知段階」から「興味段階」に引き上げることも可能になるでしょう。
採用コストの削減
採用広報は、長期的には採用コスト削減につなげることができます。
採用広報により、自社を十分に理解し、自社の価値観に合った人材を採用できるため、採用ミスマッチを防ぐことが可能です。これにより、早期離職防止の効果が期待でき、採用コストの削減につなげることができます。特に、社員の定着率が向上することから、退職者を補填する採用コストや、複数の採用手段を講じるコストを抑えられることも大きなメリットです。
戦略的な採用広報の実現ステップ
効果のある採用広報をおこなうには、戦略を立てることが重要になります。ここでは、戦略的な採用広報をおこなうためのステップを紹介します。
効果検証が可能な目標・KPI設定
戦略的な採用広報を実現するには、最終的な目標への達成度合いを検証・評価できるKPIの設定が必要です。
「認知」「SNSフォロー」「説明会参加」「採用ブログ閲覧」「採用サイト閲覧」「応募」のようにゴールまでのプロセスを細かく分けたうえで、ステップごとにKPIを設定しましょう。細かくKPIを設定しておくと、効果が出ないときの軌道修正が容易になることはもちろん、費用対効果も見えるため、採用広報の計画が挫折しにくくなります。
ミスマッチを防ぐ精確なターゲット設定
ターゲットの具体的な設定が、効果的な採用広報の出発点です。
ターゲットの属性を細かく絞り込めば、それにともなって広報で届ける内容も具体的に決めることができます。漠然とした「優秀な人材」では現場の社員の協力を得にくいですが、スキルや人柄を明確にすれば採用に関わる社員全員が共通認識を持って取り組めるでしょう。
人物像を明確にするポイントについては、「採用戦略とは?使えるフレームワークや立て方、ポイント・注意点を徹底解説」で詳しく解説しています。
自社に合う手法・ツールの選択
訴求したい内容・ターゲット層を踏まえ、適切な採用手法・ツールを選択します。手法・ツールは、パンフレットや採用サイト、ブログ、動画、SNSなどさまざまです。企業文化を伝えるならオウンドメディア、若年層や新卒に向けて社員の人柄を伝えるならTwitterなどのSNSというように、目的・ターゲットと相性のよい手法・ツールを選びましょう。
採用の「PESOモデル」
採用広報では、かつてオウンドメディア、ペイドメディア、アーンドメディアを柱とした「トリプルメディア」による戦略策定が主流でした。しかし最近ではアーンドメディアの分類を見直し、「シェアドメディア」を加えた「PESOモデル」が有力視されています。
それぞれのメディアの性質を踏まえて自社に足りない部分を強化するなど、ツール選択の参考にしてみてください。
※参考:広報会議「図 1 トリプルメディア(POEM)から「PESO」へ」をもとに作成
※オウンドメディアを使った採用広報について詳しくは→ 「オウンドメディアリクルーティングとは?メリット、導入手順、コンテンツ事例まで易しく解説。」
社内外への確実な周知
運用でつまずかないよう、採用広報開始前に社内外への周知を徹底することも大切です。
社内での周知はおろそかになりがちですが、採用広報を展開し始めてから広報内容と社員の情報発信が矛盾しているといった事態は、混乱やイメージ低下を招くおそれがあります。スタートを就活解禁日に合わせるなどのスケジュール面、発信する内容の方向性や公開範囲のすり合わせなどの共有事項を、関係者にもれなく伝えることがスムーズな運用を支えます。
採用広報の知っておきたいポイント4つ
ここでは、採用広報を始める前に知っておきたいポイントをお伝えします。
自社ビジネスの本質を伝える
単に事業内容を説明するだけでは、自社がどのように世の中に貢献しているのか、何を目指しているのか、ビジネスの本質が伝わりにくいでしょう。
自社の経営理念や価値観をわかりやすい言葉で発信するとともに、将来のあるべき姿・ビジョンを求職者に理解できる形で共有するなど、ビジネスの本質を伝えることが大切です。このためには、人事担当者が事業内容やビジョンなどの理解を深めることはもちろん、自社の価値観をあらためて共通認識させることが重要になります。
自社の価値観・採用ポジションを理解してもらう
求人情報の記載事項である事業内容や採用条件を記載するだけでは、自社の魅力を伝えることはできません。
求職者の興味を惹きつけるには、働くイメージや社員が活躍している様子など、求職者の知りたい情報を発信することが不可欠です。特に、自社の価値観や採用ポジションをわかりやすく伝えることで、それに共感する人材を集めることができます。
仕事のやりがい、社風を訴求する
自社の求める人材像に合った「仕事のやりがい」「社風」などの訴求も重要です。
たとえば、コツコツ仕事をこなしたい求職者にとって、チャレンジ精神旺盛な社風は価値観が合わないなど、仕事のやりがいや社風が求職者の価値観に合わなければ採用ミスマッチにつながる恐れがあります。仕事のやりがいや社風など、自社の価値観をわかりやすく訴求し、採用ミスマッチを防ぐことも採用広報で大切なポイントです。
採用広報の前に社員のベクトルを合わせる
採用広報の前に社員のベクトルを合わせることは、採用広報をおこなううえで欠かせない前準備です。
仕事のやりがいや社風など自社の価値観を発信し、それを見た求職者が興味をもって応募してくれても、面接に応じた社員が期待したイメージと違うと求職者がギャップを感じるリスクがあります。
社員のベクトルを採用広報で発信した価値観に合わせておくことで、社外に打ち出す内容と社内の現状にズレが生じるリスクを抑えることが可能です。大事なのは、採用関係者だけでなく、社内全体に価値観のベクトルを合わせるよう、時間をかけてでも取り組むことです。
採用広報のうまい企業事例
ここでは、採用広報のうまい企業事例を紹介します。
リファラル採用を強化した事例【LINE株式会社】
LINE株式会社は2019年7月、LINEグループ各社でリファラル採用を徹底して推進していくと発表しています。
同社は東証プライム市場、ニューヨーク証券取引所にも上場しており、求職者からも注目される企業です。現在は、行動指針のひとつ「最高を目指す、少数精鋭のチーム」という方針の下、リファラル採用を中心としたダイレクト型の採用を推進しています。リファラル採用においては各部門が主体となって進めますが、部門では採用活動に慣れていないことから、人事部門と各部門によってはタスクフォースを立ち上げ、リファラル採用に取り組んでいます。
マーケティング思考で採用広報を実践した事例【ナイル株式会社】
デジタルマーケティング事業やモビリティサービス事業を展開するナイル株式会社は、マーケティング思考で採用広報を実践しています。
「コンセプトダイアグラム」というWebサイト制作の手法を用いて、求職者がどのような経路でサイトに訪れたかなどの行動を分析し、サイトの全体像を可視化しています。また、同社の採用オウンドメディア「ナイルのかだん」では、社内の雰囲気が伝わりやすいように、社員インタビューを中心に展開しています。
ターゲット変更で内定数を4倍にした事例【株式会社ベッセル】
日本全国・海外にホテルや飲食店を展開する株式会社ベッセルは、採用ターゲットを変更することで、内定数を4倍にした実績を持ちます。
元々は、地元の私立大学を採用ターゲットにしていましたが、同社は全国展開していることから、地元志向の強い学生から内定辞退が多いことが課題となっていました。この課題を克服するため、採用ターゲットを「地元出身者 ✕ 全国の大学」に変更したのです。
この採用ターゲットの下、「地元の福山に貢献するとともにグローバルに活躍したい学生」を集めるため、「福山は、世界だ」を採用スローガンに設定したところ、従来6~7名だった内定者が25~28名と内定数を4倍にも伸ばすことができました。
まとめ
本記事では、採用広報の概要や重要性・メリット、採用広報実現の進め方のほか、採用広報の知っておきたいポイントや企業事例を解説しました。
売り手市場で競争が激化している昨今、求人広告のような「待ちの採用」だけでは自社の求めるターゲット人材を獲得することは困難です。採用広報を実施することで、効率的にターゲットにアプローチする「攻めの採用」の実現が可能になるのです。
本記事で紹介した「戦略的な採用広報の実現ステップ」などを参考に、効果的な採用広報を実践しましょう。
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