キャリアアップ助成金とは
キャリアアップ助成金は、有期雇用労働者や派遣労働者に代表される非正規雇用労働者に対して、正社員化や処遇の改善などのキャリアアップを促進する取り組みを実施した企業に、助成金が支払われる制度です。
非正規雇用労働者の就労条件の低さなどを改善し、労働意欲や能力を向上させることがキャリアアップ助成金の狙いです。同時に企業側においては事業の生産性を高めることや、優秀な人材を確保することが期待されています。
特徴としては、コースが7つに分かれており、それぞれのコースごとにさらに細かい規定が設けられている点です。助成金を申請する際には、自社に適切なコースを選んだうえで、コースの詳細な支給条件などを確認する必要があります。
中小企業を中心に、アフターコロナの経営回復に向けて、雇用維持や人材確保などの必要性が高まっています。そのような時に活用できる助成金の一つがキャリアアップ助成金といえるでしょう。
キャリアアップ助成金の7つのコース
キャリアアップ助成金は、「正社員化コース」が2コースと正社員化コース以外の「処遇改善関係コース」が5コース用意されており、合計で7つのコースがあります。
正社員化コース
アルバイトやパートなどの有期契約労働者等を正規雇用労働者に転換した場合や、直接雇用した場合に助成されるコースです。
最もポピュラーなコースといわれ、有期契約労働者等を雇用する企業が最初に検討する助成金です。
助成金の支給額は対象企業が中小企業なのか、大企業なのかにより異なります。また、正社員化により生産性の向上が認められるかどうかによっても助成金の額が異なりますが、最大で72万円の助成金を受け取ることができます。
ただし、助成金の申請には多くの書類を作成する必要がある上に、正社員コースを申請してから助成金の受給まで1年以上かかる場合もあります。申請をする際には、時間に余力を持って計画を立てるようにしましょう。
障がい者正社員化コース
障がい者正社員化コースは、障がいを持っている非正規労働者を正規労働者に転換する場合に貰える助成金です。
障がい者が安心して職場で働き、定着できるようにするための働きかけといえます。
賃金規定等改定コース
賃金規定等改定コースは、非正規労働者の賃金を増額改定すると受給できる助成金です。
非正規労働者の能力や業務成果に見合った賃金に改定することで、モチベーションアップに繋げられます。
賃金規定等共通化コース
賃金規定等共通化コースは、非正規労働者に対し、正規労働者と共通する賃金規定を新たに設けて、それを適用すると貰える助成金です。
正規労働者と同等の業務が行えるのであれば、非正規労働者も同じ賃金を貰える権利を与えるための制度です。
諸手当制度等共通化コース
諸手当制度等共通化コースは、非正規労働者の手当を正規労働者と共通化することで受給できる助成金です。
非正規労働者にも、正規労働者と同じ諸手当(住宅手当、通勤手当など)を支給することができれば、職場の定着率を上げられるでしょう。
選択的適用拡大導入時処遇改善コース
選択的適用拡大導入時処遇改善コースは、非正規労働者に社会保険などの適用を実施し、かつ基本給を増額すると貰える助成金です。
社会保険の適用を拡大したり、手厚い年金を保障したりすることで、非正規労働者にとって働きやすい環境実現が期待されています。
短時間労働者労働時間延長コース
短時間労働者労働時間延長コースは、勤務時間が短い非正規労働者の労働時間を延ばし、社会保険に加入できるようにすることで貰える助成金です。
所定労働時間が週20時間以上になれば、非正規労働者でも社会保険に加入できるので、中長期的なキャリアアップを目指せるようになるでしょう。
キャリアアップ助成金の令和4年度の主な変更点
キャリアアップ助成金の令和4年度(2022年4月1日以降)の変更点について「正社員化コース」を中心として解説します。
なおキャリアアップ助成金は内容が改定される頻度が比較的高いため、実際の申請の際には、最新の支給要件を確認することをおすすめします。
正社員化コースの変更点:「有期」→「無期」の廃止
キャリアアップ助成金の中でも申請件数の多い「正社員化コース」は、大幅な変更点がありました。
これまでは正社員化として3パターンの転換が認められていましたが、「有期」→「無期」の転換が廃止されたため、今後は必ず「正社員」に転換する必要があります。
【変更前】
転換パターン | 助成金額 |
---|---|
①有期 → 正規 | 57万円 |
②有期 → 無期(廃止) | 28万5千円 |
③無期 → 正規 | 28万5千円 |
【変更後】
転換パターン | 助成金額 |
---|---|
①有期 → 正規 | 57万円 |
③無期 → 正規 | 28万5千円 |
「正社員」と「非正規雇用労働者」の定義の変更
2022年10月1日以降に転換または直接雇用を実施する場合、「正社員」と「非正規雇用労働者」の定義が変更になります。この変更点については、正社員化コースに加えて、障がい者正社員化コースも対象になります。
【正社員の定義】
9/30まで | 同一の事業所内の正社員に適用される就業規則が適用されている労働者 |
---|---|
10/1以降 | 同一の事業所内の正社員に適用される就業規則が適用されている労働者
※ただし「賞与または退職金の制度」かつ「昇給」が適用されている者に限る |
【非正規雇用労働者の定義】
9/30まで | 6か月以上雇用している有期または無期雇用労働者 |
---|---|
10/1以降 | 賃金の額または計算方法が「正社員と異なる雇用区分の就業規則等」の適用を6か月以上受けて雇用している有期または無期雇用労働者 |
その他の変更点
正社員化コース以外にも、2022年4月以降は加算措置が廃止になるコースや支給要件の緩和、時限措置の延長などの変更点があります。
詳細は厚生労働省の以下のページをご確認ください。
参考:キャリアアップ助成金
キャリアアップ助成金の適用条件
キャリアアップ助成金の適用条件について、企業側の条件及び従業員側の条件を紹介します。
企業側の条件
助成金の申請の対象になる事業主については細かな規定があります。今回は主だった条件をピックアップして紹介します。
- 雇用保険に加入していること
- キャリアアップ管理者を配置し、キャリアアップ計画書を作成して労働局の認定を受けること
- キャリアアップ計画書で指定してある期間内に正社員などに転換すること
- 正社員への転換制度を就業規則等に規定していること
- 対象になる労働者を転換した後に6ヶ月以上継続して雇用し、転換前6か月間の賃金より3%以上増額させること
- 労働法令等を遵守していること
参考:キャリアアップ助成金支給要領(令和4年度)【厚生労働省】
特に5の計算式にはさらに細かい条件が付与されているため、事前に詳細を確認するようにしてください。
従業員側の条件
正社員コースの対象になる労働者は、次の4つのうちのいずれかに該当する人になります。
- 支給対象となる事業主に通算して6ヶ月以上雇用されている有期契約労働者
- 支給対象となる事業主に6ヶ月以上雇用されている無期雇用労働者
- 6ヶ月以上継続して同一の業務に従事している派遣労働者
- 支給対象となる事業主が実施した有期実習型訓練を受講し、それを修了した有期契約労働者等
1から4までのいずれかに当てはまる場合でも、次に該当する場合は対象にならないため注意しましょう。
- 正規雇用労働者として雇用することを約束して雇い入れられた場合事業主または取締役の3親等以内の親族の場合
- 支給申請日に離職している場合
- 転換または直接雇用日から定年までの期間が1年以上ない場合
- 支給対象事業主において定年を迎えた者
キャリアアップ助成金の申請の流れ
キャリアアップ助成金は、最初にキャリアアップ計画書を作成し、所轄の労働局に提出します。その後、計画書に記載された内容を実施し、完了したら改めて助成金を申請します。
申請の流れは正社員化コースとそれ以外で異なり、正社員化コースの場合はキャリアアップ計画書に対象者と正社員に転換する日までの期間、方法、正社員化の目的や担当管理者を記載します。
次に就業規則の改定をおこない、非正規労働者の転換について明確に定めます。正社員への転換は就業規則に基づく必要がありますが、就業規則の改定には労働組合あるいは労働者の過半数以上を代表する労働者の意見を聞く必要があります。
ここまで完了したら正社員への転換を行い、転換後は6ヶ月間の給与を支払います。この場合の給与は転換前より一定割合以上増額している必要があり、給料を算定する際には注意が必要です。
正社員への転換が完了したら計画が達成されたこととなるため、完了から2ヶ月以内にキャリアアップ助成金の申請をおこないます。
それ以外のコースについても正社員化コース同様、キャリアアップ計画書を作成・提出し取り組みを実施、就業規則に定めのない場合は必要に応じて改定をおこない、計画書の内容の通り取り組みます。
取組が終わったら6ヶ月間の賃金支払をおこない、完了したら2か月以内にキャリアアップ助成金を申請します。必要書類に関しては、必要に応じて厚生労働省のチェックリストをご活用ください。
参考:東京労働局「キャリアアップ助成金 必要書類チェックリスト」
まとめ
キャリアアップ助成金を申請することで、非正規社員は待遇改善などによりモチベーションが上がり、企業は優秀な人材を確保できるというメリットがあります。
キャリアアップ助成金は、条件を満たした企業であれば利用できる自由度の高い助成金です。しかし申請条件などの詳細を知らずに利用しようとすると、思わぬトラブルを生むこともあります。自社がどのコースを申請するべきかを当記事をきっかけに検討をし、スムーズに申請業務を行ってください。
助成金に限らずですが、労務トラブルは注意しないと会社への損害にもつながりかねません。よろしければ「採用のよくあるトラブル集」もご一読いただければ幸いです。
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