ワークシェアリングとは?メリット・デメリットと国内外事例を紹介 COLUMN

2022.12.06

2022.12.05

ワークシェアリングとは?メリット・デメリットと国内外事例を紹介

「ワークシェアリングという単語を最近よく聞くが、具体的な内容が分からない」
「特定の社員に超過勤務が発生しているので、どうにか対策できないだろうか」

「働き方改革」「ワークライフバランス」などの言葉に代表されるように、昨今は幅広い働き方が重視される時代です。そんな中、多様な働き方を促進する「ワークシェアリング」が注目を浴びています。

企業にとっても、働く個人にとってもきちんと活用できればメリットが生まれる働き方ですが、もちろん注意すべき点もあります。当記事では、ワークシェアリングのメリット・デメリットに加えて、種類や導入方法まで詳しく解説します。全容を正しく理解したうえで、自社への導入を検討してください。

目次

ワークシェアリングとは

ワークシェアリングとは
ワークシェアリングとは、ひとつの仕事を複数の人で分担し、一人あたりの負担軽減を狙う働き方です。

言葉としては、従業員同士で雇用(ワーク)を分け合う(シェアリング)という意味があります。その他、「ワーキングシェア」や「仕事の分かち合い」と呼ばれることもあります。

たとえば、ある顧客の担当を一人の社員に任せた場合、顧客対応のすべてを一人で担当するための時間や労力が発生します。
ワークシェアリングを行った場合は、「提案担当」「納品担当」「フォロー担当」など複数の社員で業務を分割します。

そのため、従業員一人ひとりの負担が分散されて生産性アップが期待できるのです。

ワークシェアリングが注目される背景

ワークシェアリングが注目される背景
ワークシェアリングは世界的にも注目されている概念で、海外で先行的に導入が進み、成功を収めています。

ワークシェアリングが注目を集めた背景には2つあり、1つは失業率の高さです。一人の仕事を複数人で分担することで、人を雇用する機会が拡大し、失業率の低下を狙うことができます。現にアメリカでは、失業率が大幅にダウンした実績が多数報告されています。

2つ目は、長時間勤務によるハードワークの問題があります。一人で行う業務を複数人で行うことにより個人負担が軽減され、時間や心に余裕が生まれる効果が期待できます。

日本では、十数年前からワークシェアリングが注目されるようになり、2019年から働き方改革の一環としての法整備(時間外労働の上限化、同一労働同一賃金制度)などにより、さらに広がっていきました。

ワークシェアリングのメリット

ワークシェアリングのメリット
ワークシェアリングのメリットを企業側・従業員側の双方から考えていきます。

企業側のメリット

企業側のメリットとして代表的な2点を紹介します。

長時間労働の是正

ワークシェアリングのメリットは、長時間労働の改善が期待できる点です。

従来より、日本人の労働時間の長さはさまざまな企業で問題視されていました。
ワークシェアリングにより一人あたりの仕事量が減ると、自ずと労働時間も減少します。仕事量・労働時間が減れば「過労死の防止」「超過勤務の是正」など、社会的な問題にも発展しにくいことが予想されます。

労働時間を削減し、ワークライフバランスを保った働き方ができる点で、ワークシェアリングのメリットは大きいと考えられています。

コスト削減

ワークシェアリングは、人件費の削減にも効果を発揮します。

一人に負担がかかっている状態の場合、残業や休日出勤によって人件費が膨らむ傾向があります。そのような働き方をしている従業員が増えれば増えるほど、企業の総人件費も大きくなります。

ワークシェアリングによって労働時間が短縮されると、人件費の無駄を省くことができます。適切な労働時間に調整しつつ、人手が必要になったタイミングで人材を補充できるため、人件費のコントロールもしやすくなります。

人件費以外に、深夜残業や休日出勤で発生していた光熱費などのコストカットにつながるのもメリットです。

従業員側のメリット

次に、従業員側のメリットとして代表的な2点を紹介します。

雇用機会の増加

ワークシェアリングの動きが広がれば、求職者は選べる職場が増えます。

これまで働き先が見つからなかった人の雇用機会の創出はもちろんのこと、求職者は希望の職種に携われるチャンスも出てくるでしょう。

現在働いている人にとっても、業績悪化などによって職を失うリスクが少なくなります。働き続けられる安心感が生まれ、企業への定着率も上がることが考えられます。

ワークライフバランスの実現

ワークシェアリングによって一人ひとりの労働時間が短縮されるので、プライベートの時間を増やすことができます。

仕事以外の時間で、趣味を楽しんだり、家族との時間を過ごしたりするなど、ワークライフバランスを維持しやすくなるのがメリットです。
介護や育児で働くことを諦めていた人にとっても、生活とのバランスを取りながら無理のない範囲で働き続けられます。

仕事と生活を両立できることで、従業員のモチベーションアップや定着も期待でき、それに伴い私生活での刺激が、仕事に生かされる可能性もあります。

ワークシェアリングのデメリット

ワークシェアリングのデメリット
次にワークシェアリングのデメリットを紹介します。事前にデメリットを知ったうえで、解消策も考えながらワークシェアリングを導入すると、本来のメリットを享受しやすくなります。

企業側のデメリット

企業側のデメリットとして、代表的な2点を紹介します。

労働生産性の低下

企業にとって注意が必要なのは、ワークシェアリング導入後の生産性の低下です。

多数の労働者が業務に関わることで、業務の引き継ぎ、時間のロスなどでかえって業務が煩雑になる場合があります。従来一人だけが担っていたときと比べると、一時的な生産性の低下につながる懸念が考えられます。

ただし、業務マニュアルを作成するなど計画的にワークシェアリングを進めることで、リスクを回避できるでしょう。

時間や手間の発生

ワークシェアリングを導入するためには、制度変更にともなう時間と手間が発生します。

具体的には、対象業務の選定や従業員の説明・対応、給与計算の変更などが必要です。
また導入前よりも多くの人員確保や管理が必要となるため、採用コスト、福利厚生コスト、マネジメントコストの増加も予想されます。

事前に発生する作業を洗い出し、計画的にクリアしながら実施すれば、ワークシェアリングによる効果を期待できます。

従業員側のデメリット

従業員側に予想されるデメリットを2点紹介します。

給与の減額

ワークシェアリングでは従業員一人あたりの勤務時間・勤務量が減るため、給料額が減少する可能性が高まります。

例えば「フルタイム社員の勤務時間が1時間減って、月給が3万円下がった」「今までは時給1,200円だったのに、作業量が減って時給1,100円になった」などの現象が起こり得ます。

ワークライフバランスを重視する従業員にとってはそれほど気にならないケースもありますが、給与面で不満を感じる従業員も出てくる可能性があります。

従業員への影響を丁寧に説明したうえで、福利厚生の充実や副業の許可など、給与ダウンをカバーできる提案とセットで示せることが望ましいです。

コミュニケーションの減少

ワークシェアリングによる分業が進むと、コミュニケーションが減少し、チームの一体感が損なわれるという声も聞かれます。

これまでは誰かが忙しいとチーム内で声をかけあっていたにもかかわらず、ワークシェアリングで業務の線引きが明確になったことで、助け合いの風土が薄れる可能性はあります。

マネジメントする側としても、一人ひとりの仕事がシェアされ、多くの従業員で業務を切り分けると、全体像を把握しにくくなるでしょう。

そのため、コミュニケーションの活性化や業務の進捗管理など、ワークシェアリング下でも組織の風土や業務管理に支障を来たさないようにする施策にも力を入れることが必要です。

ワークシェアリングの種類

ワークシェアリングの種類
ワークシェアリングの代表的な4つの種類を紹介します。

雇用創出型

雇用創出型は、新たな雇用を提供する目的で、主に失業者・求職者を対象にしたワークシェアリングです。

失業者をパートタイムや短時間労働者として積極的に雇用することに加え、在籍している社員の負担を軽減する狙いがあります。

インフラ整備、建物建設などで導入が進み、民間企業ではなく国や政府が中心になって行われることも多いのも特徴です。

雇用維持型(緊急避難型)

雇用維持型(緊急避難型)は、予期せぬ景気悪化や社会の変化などによって、雇用機会が減る場合に行われます。

従来通りの業務で余剰人員が生まれてしまう状況でも、ワークシェアリングで仕事を細分化することで、雇用を維持できるのがメリットです。

人材の流出を防止しているため、状況が改善した暁には、既存人材で事業を立て直しすることも可能になります。

緊急維持型(中高年対策型)

緊急維持型(中高年対策型)は、中高年層の雇用を確保するために実施されます。

1人あたりの労働時間を削り、中高年者や退職者の雇用を維持することを狙っています。ワークシェアリングを実施することで、定年の延長や中高年層の再雇用なども実現できます。

中高年の雇用機会を生み出すだけでなく、人手不足に陥っている企業などは中高年を戦力として活用できます。

多様就業促進型

多様就業促進型は、従来の働き方に縛られず、多様な働き方で人材を雇用するワークシェアリングのタイプです。

例えば、フルタイム出勤のほかに「時短勤務」「午前中勤務」「パートタイマー」「テレワーク」など、複数種類のシフトを用意するなどが代表的な施策です。

社内の勤務形態の種類を増やすことで、介護や子育てで労働時間がとれない人も働きやすくなります。

ワークシェアリングの国内外の事例

ワークシェアリングの国内外の事例
実際にワークシェアリングを導入した国内外の事例を紹介します。

トヨタ自動車

自動車メーカーのトヨタ自動車では、2009年にアメリカの工場従業員約1万2,000人を対象にワークシェアリングを行いました。目的は「急激な業績悪化」「雇用の維持」に対応するためで、労働時間と給料が削減されました。

  • 具体的には以下の施策が展開されました。
  • 賞与の一部削減
  • 幹部社員と間接部門の賞与不支給
  • 賃上げの見送り
  • 幹部社員の給与5%%カット
  • 早期退職者の募集

また、日本のトヨタ工場でも2009年2~3月に停止日が2日間設けられ、停止日の賃金がカットされたことがあります。

トヨタは「雇用維持型(緊急避難型)」に該当し、ワークシェアリング実施で、多くの従業員の雇用が守られました。

ベネッセコーポレーション

教育事業で有名な株式会社ベネッセコーポレーションは、1992年からワークシェアリングに取り組んでいます。

ベネッセは「多様就業促進型」のワークシェアリングで、短時間正社員制度を導入し、育児中の女性が働きやすい環境を作ってきました。

また、ベネッセは短時間正社員の仕事と子育ての両立を支援する目的で、ワークシェアリング関連施策として、以下のことを実施しています。

  • ロールモデルの共有
  • ワーキングマザー同士の情報交換
  • グループポータルサイトでの情報交換

制度利用者は増加傾向にあり、今後は男性社員も含めた全従業員向けの施策として徹底していくことを目指しているそうです。

オランダ(海外事例)

「働き方先進国」といわれているオランダでは、早くからワークシェアリングが導入されています。1980年前半に大不況に見舞われたことにより、「雇用創出型」ワークシェアリングが一気に広まりました。

特徴的なのは、フルタイムとパートタイマーで福利厚生、賃金、社会保障などの待遇差をつけていない点です。
雇用の柔軟性のフレキシビリティと、安全を指すセキュリティをあわせた概念「フレキシキュリティ」を広く浸透させ、多様な働き方を共存させています。

その結果、労働者が雇用形態や労働時間など働き方を選択することができるようになり、失業率は1983年の11.9%から、2001年には2.7%と大幅に改善されました。

ワークシェアリング導入の4つのステップ

ワークシェアリング導入の4つのステップ
ワークシェアリングを導入するには、一般的に4つのステップがあります。詳細は各社によって異なるため、自社の状況を思い浮かべながら読んでみてください。

  1. 現在の業務内容と必要な人材の把握
    現在どのような業務があるのか、どのようなスキルが必要なのか、適     正人数は何人か、どのくらいのコストが発生しているのか、などを把握します。
  2. 不要な業務の見直し
    1の作業ののち、不要な業務やフローを改善すべき業務を洗い出します。
  3. ワークシェアリング可能な業務のリスト化
    ワークシェアリングにも向き不向きがあります。ワークシェアリングが可能な分割しやすい業務をリスト化します。
  4. ワークシェアリングに向けてのマニュアル作成
    ワークシェアリングの概要や運用方法などのマニュアルを作ります。

ワークシェアリングに関連する助成金

ワークシェアリングに関連する助成金
ワークシェアリングは政府の「働き方改革」を後押しする施策なので、活用できる助成金があります。ここでは、代表的な2つの助成金を紹介します。

時間外労働等改善助成金

時間外労働等改善助成金は、労働時間の短縮やテレワークの導入など、働き方改革に取り組む中小企業事業主向けの助成金です。取り組む内容によって5つの助成コースに分かれています。

  1. 時間外労働上限設定コース
  2. 勤務間インターバル
  3. 職場意識改善コース
  4. 団体推進コース
  5. テレワークコース

適用条件はコースによって異なるため、詳しくは厚生労働省のホームページを参考にしてください。
参考:厚生労働省「働き方改革推進支援助成金

雇用調整助成金

雇用調整助成金とは、経済に関わる事象が原因で事業の縮小が必要になった企業が対象となります。一時的な休業などを行うことで従業員の雇用維持をおこなった場合、企業が従業員に支払った休業手当などの一部を国が助成する制度です。

助成対象となる「休業」とは、労使間の協定により所定労働日の全一日に渡って実施されるものとされています。受給額は、休業を実施した場合は事業主が支払った休業手当負担額に対し、中小企業は2/3(中小企業以外は1/2)の助成率を乗じた額となります。

また一定の要件を満たす場合は全額が助成されることもあるため、詳しくは厚生労働省のホームページを参考にしてください。

参考:厚生労働省「雇用調整助成金

まとめ

まとめ
ワークシェアリングは、日本ではまだ導入されている事例が少ないですが、将来的に重要となる手法のひとつです。
雇用の創出やハードワークの緩和、さまざまな働き方の提案など、現代の労働環境の課題を解決する一助となることが想定されます。

企業にとっても従業員にとっても、多様な働き方が実現できる魅力的な制度ですが、導入にあたっては注意が必要な点もあります。事前準備なしにワークシェアリングを導入すると、現場が混乱するだけでなく、労使トラブルにも発展することも考えられます。

労使トラブルにまで発展すると、企業も従業員もダメージが大きくなりがちなので、事前に「よくあるトラブル集」をご一読いただき、入念な準備をするようにしましょう。

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