中小企業をとりまく新卒採用の現状と構造的な問題
労働人口減少を背景に、人手不足が年々深刻化するなか、中小企業をとりまく新卒採用はますます厳しくなっています。ここでは、中小企業における人手不足感や構造的な人手不足の問題点を解説します。
そもそも中小企業とは?
「中小企業」というと、規模の小さい企業をイメージされるかもしれませんが、数百人規模の中堅企業もあれば、数十人程度の企業もあります。また、法律上の用語では「小規模事業者」といわれる数名程度の企業もあるなど、中小企業といっても規模感は各様です。
中小企業基本法の定義によると、資本金や従業員数によって次のように分類され、特に小規模事業者は、資本金に関わらず少ない人数の企業が分類されています。中小企業や小規模事業者は、このように人数規模や資本力に違いがあるため、それぞれに応じた新卒採用の戦い方が必要です。
業種 | 中小企業 | 小規模事業者 | |
資本金/出資金 | 常時従業員数 | 常時従業員数 | |
製造業、建設業、運輸業、その他 | 3億円以下 | 300人以下 | 20人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 | 5人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 | 5人以下 |
小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 | 5人以下 |
(※参考)中小企業庁:「中小企業・小規模企業者の定義」
年々深刻化している中小企業における人手不足感
労働人口減少を背景に、中小企業における人手不足はますます深刻化しています。2022年2月に実施した東京商工会議所の調査によると、「人手が不足している」と回答した中小企業は60.7%で、前年より16.3ポイント増加しており、コロナ感染拡大直前の水準を上回っている状況です。
(※参考)日本商工会議所:「人手不足の状況および従業員への研修・教育訓練に関する調査」
中小企業における構造的な人手不足の問題点
中小企業における人手不足には、構造的な問題点もあります。厚生労働省で公表している調査によると、中小企業から大企業へ転職する労働者は約100万人、一方で大企業から中小企業へ転職する労働者は約50万人との結果があります。このように、中小企業の人手不足には構造的な問題があることがわかります。
(※参考)厚生労働省:「中小企業における人手不足 の現状等について」
中小企業が人員を充足できない4つの理由
中小企業の人手不足は、求職者の動向による構造的な外部要因がある一方、中小企業の新卒採用による取り組みといった内部要因もあります。ここでは、内部要因となる中小企業が人員を充足できない4つの理由を次のとおり説明します。
- 【1】自社の魅力を打ち出せていない
- 【2】適切な採用手段が利用されていない
- 【3】組織的な採用活動がされていない
- 【4】情報発信が不足している
【1】自社の魅力を打ち出せていない
厚生労働省で公表している調査によると、中小企業の新入社員における入社した会社を選んだ理由として、「仕事の内容がおもしろそう」が42.6%と最も高く、次いで「職場の雰囲気が良かった」が39.8%、「自分の能力・個性が活かせる」が35.5%と続いています。
こうした中小企業の魅力を打ち出せていないと、求職者を惹きつけることは困難です。そもそも、「自社に魅力なんてない」といった固定観念で、自社の魅力を見出せていないことも考えられます。
(※参考)厚生労働省:「中小企業における人手不足 の現状等について」
【2】適切な採用手段が利用されていない
募集コストを抑えるため、「ハローワークなど、最低限の募集手段でしか採用広報をおこなえていない」、魅力を訴求する採用ツールがないことから「学校訪問をしても就職担当や教授に自社の魅力を伝えられない」ということがあげられます。なお、ハローワークの場合、人材の質がよくないケースもあることから、離職につながりやすい点も無視できません。また、採用活動に人手を割けられないため、「適切な採用手段の検討や実施ができていない」といったこともあるでしょう。
【3】組織的な採用活動がされていない
中小企業の場合、人事部といった採用に特化した部門がなく、総務部門における業務のひとつとしておこなっているケースが少なくありません。小規模のケースでは、経営者自ら採用活動をおこなうこともあるように、中小企業では、組織的な人材採用がされていないケースが大半と考えられます。こうした場合、場当たり的な対応となりやすく、効果的な採用活動が困難になります。
【4】情報発信が不足している
中小企業においては、企業の労働条件や仕事内容が不明確なケースがあります。特に小規模事業者においては、賃金も明確になっていないなど、情報発信不足によって入社を決断するための判断基準が不足しているケースが少なくありません。また、仕事のやりがいや魅力、福利厚生など、自社の魅力を十分に発信できていない可能性もあるでしょう。
中小企業で新卒採用を成功に導く4つのポイント
中小企業における人材不足のうち、外部要因を企業努力で改善することは困難ですが、内部要因となる自社の取り組みについては、改善が可能です。ここでは、中小企業の取り組みによって、新卒採用を成功に導く4つのポイントを解説します。
- 【1】自社の魅力を作り出す
- 【2】適切な採用手段を活用する
- 【3】組織的に採用活動をおこなう
- 【4】求職者の知りたい情報を発信する
【1】自社の魅力を作り出す
「当たり前のことで魅力に感じていない」「デメリットにしか目がいかない」など、自社の魅力が見えにくいことがあります。中小企業においては、「大企業と比べると魅力は低い」などの固定観念から、自社の魅力を見つけ出す努力を怠っているケースもあるでしょう。
このようなネガティブな思考に陥らないよう、さまざまな視点や角度から「仕事のおもしろさ」「職場雰囲気の良さ」「能力・個性の活かしやすさ」などを見出し、採用ターゲットに合った自社の魅力を打ち出しましょう。
自社の魅力の出し方を詳しく知りたい方は、「会社の魅力を出すには?8つの切り口と魅力の見つけ方フレームワークを解説!」や「自社の魅力を「過小評価」していませんか?」の記事をご参考ください。
【2】適切な採用手段を活用する
中小企業の場合、リソースの少なさやコスト制約の関係から、採用手段の選択肢が限られるケースが多くあります。しかし、近年では、無料から使える求人サイトや、コストを最小限に抑えられるサービスも登場しています。
ハローワークや学校訪問だけでなく、中小企業に強いナビサイトや、無料や低コストで活用できるサービスを活用するなど、自社の状況に合わせた適切な採用手段の活用が重要です。人的リソースを割くことができない場合は、アウトソーシングサービスの利用を検討することも有効です。
【3】組織的に採用活動をおこなう
効果的な採用活動をするには、採用活動を組織的におこなうことが重要です。これにより、採用市況の分析や適切な人材要件を定義するなど、戦略的な採用活動を展開できます。人的リソースを割けない、ノウハウがないといった場合は、外部サービスや採用広告代理店などの外部ノウハウを活用することで、自社に最適な採用活動の実現が可能です。
【4】求職者の知りたい情報を発信する
求職者の知りたい情報を適切に発信することも、中小企業の新卒採用を成功させるポイントです。
職業安定法で開示が義務化されている労働条件はもちろん、採用ミスマッチがおきないよう、仕事のやりがいや魅力、社風や福利厚生など、求職者が知りたい情報を積極的に開示しましょう。なかでも重要なことは、デメリットもしっかり開示すること。このデメリットを開示しないと、採用ミスマッチによって早期離職につながるほか、「聞いていなかった」「信頼できない」など企業の信用を落としかねません。自社の魅力とともに、デメリットをもしっかり開示することで、自社にマッチした求職者を集めることができます。
知っておきたい!中小企業における新卒採用成功事例
ここでは、中小企業における新卒採用の成功事例を紹介します。
企業のありのままの魅力を伝える人材採用(株式会社アイ・ビー・エス)
【企業概要】
株式会社アイ・ビー・エス(従業員30名、資本金2億8000万円)は、創業より30年にわたりビルメンテナンス事業を営んできたが、2009年頃、事業を環境衛生業(いわゆる清掃業)に転換している。
【新卒採用の状況】
3Kのイメージが残る環境衛生業は一般的に人材採用が難しいなか、同社は、大学生を中心に毎年5~10名程度の新卒社員を採用し、新卒採用を成功させている。
【成功の理由】
1.必要とする人材像を明確にすること
「女性ならではのきめ細かい対応ができ、美的意識が高いことを前提として、同社の事業内容に興味を持てる人材」を採用すると決めている。
2.同社のありのままの姿を伝えること
学生が興味を持ってくれるように業務内容を紹介する動画を作成している。また、ブースにおける業務実演などの工夫によって、メリット・デメリットをありのままに伝えている。
3.従業員が主体的に働きやすい環境の提供
ボランティアなどの活動を通じて社内の風通しを良くするほか、プロジェクトチームを通じて従業員に主体性を持たせ、働きやすい環境を提供している。
(引用・参考)中小企業庁:「2015年版中小企業白書」
社員全員で作り出す理想の労務環境(拓新産業株式会社)
【企業概要】
拓新産業株式会社 (従業員75名、資本金4,500万円)は、建設機材のレンタル業を営む企業。「顧客満足」と同時に「社員満足」を高めることをモットーに、一流の中小企業へと歩みを続けている。
【新卒採用の状況】
同社は、「社員満足」を高めるために、徹底して働きやすい労務環境を整えることで、多くの人材を惹きつけている。労務環境が整っていなかった25年前は、一人として大学生を採用できなかったが、今では、新卒採用の競争倍率が100倍を超えることもあるように、経営方針の改革によって新卒採用を成功させている。
【成功の理由】
1.完全週休2日制・有給休暇の完全消化の実現
社長自ら、定期的に有給休暇の未取得者を発表し、休暇所得の未計画者へは会社が休暇取得日を指定するなどの取り組みを進めた。これにより、有給休暇の取得を定着化させ、有給休暇の取得率を90%まで引き上げた。
2.残業ゼロ・休日出勤ゼロの実現
当初は、水曜日のみを「ノー残業デー」として取り組みを始めたが、残業時間削減の取り組みが浸透するにつれて、その範囲を拡大した。約2年後には「ノー残業」のスタイルが定着し、今では年間の平均残業時間が2時間となっている。休日に対応できない企業から取引を解消されることもあったが、働きやすい環境整備を優先していることが採用活動の成功のポイントである。
(引用・参考)中小企業庁:「2015年版中小企業白書」
中小企業におすすめ新卒採用サービス5選
人的リソースが限られている中小企業は、少ないリソースで効果的な採用手段を選ぶことが重要です。ここでは、中小企業におすすめの新卒採用サービスを紹介します。
中小企業に強い求人ナビサイト(リクルート)
認知度が低いことが多い中小企業は、利用者の多い就職ナビサイトを活用することが効果的です。リクナビは、「業種×地域×職種」のキーワードで検索できるため、企業規模に関わらず学生を集めることが可能。導入から運用まで、リクルーティングアドバイザーの手厚いサポートもあり、中小企業に強い就職ナビサイトです。
【掲載料金】要問い合わせ
【サイト】リクナビ
【運営元】株式会社リクルート
無料から始められる!求人検索エンジン(Indeed)
求人検索エンジンは無料で使えることも多く、有料サービスでもクリック課金による費用体系があるように、費用対効果の高い採用手法です。Indeedは、国内No.1の求人情報特化型の求人検索エンジンで、無料から始められます。画面案内に従い、会社・求人情報を入力するだけで、簡単に求人情報を掲載できます。有料オプションであるスポンサー求人を活用することで、自社の求人情報の表示回数を増やすことができ、効果的な求人募集が可能です。
【掲載料金】無料/スポンサー求人の場合はクリック課金
【サイト】Indeed
【運営元】Indeed Japan 株式会社
※「無料求人管理ツール(Q-mate)」を使うと、簡単にIndeedに掲載できます。
採用にリソースを割けない企業におすすめ!採用業務アウトソーシング
他業務と兼任するなか、大学訪問や就活イベント、求人募集に関する学生とのメールや電話のやり取りなど、採用活動の業務は非常に煩雑です。こうした採用活動にリソースを割くことができない企業は、自社の環境に合わせて採用業務をアウトソーシングすることも有効でしょう。弊社クイックの採用アウトソーシングは、1つの企業に対して、「専任の担当者+サポートスタッフ数名」という体制の下、採用結果の見える化と改善策で、計画性のある採用活動を実現しています。事業や仕事内容、企業文化を踏まえて、依頼企業の一員としておもてなしのコミュニケーションをおこない、満足度の高い採用アウトソーシングを展開しています。
【掲載料金】要問い合わせ
【サイト】採用アウトソーシング(採用代行・RPO) | クイックの採用サロン
【運営元】株式会社クイック
少人数を厳選して採用したいケースに最適!新卒紹介(リクルート就職エージェント)
予算が見合えば、新卒紹介の活用も考えられます。新卒採用の人材紹介は、学生に就業経験がないことから、一律的な単価設定をされていることが大半です。また、一般的には成功報酬型のため、自社にマッチした学生に出会えるまで選考を重ね、納得できる人材の採用が可能です。リクナビ就職エージェントは、最大級を誇る登録学生数。企業における採用課題や人材要件の下、専任アドバイザーがターゲットを厳選してアプローチをおこなうため、自社にマッチした人材の採用が可能です。
【掲載料金】要問い合わせ
【サイト】リクナビ就職エージェント|新卒採用斡旋サービスサイト
【運営元】株式会社リクルート
無料で参画できる!合同企業説明会(ハローワーク)
ハローワークは、公共機関が運営する完全無料の求人掲載サービスです。
雇用保険・労働保険の適用事業所であれば利用可能で、ハローワークインターネットサービスを活用すれば、求人票作成や求職者管理などをWeb上でおこなえます。ただし、質の良い求職者が集まりにくいこともあるため、他の手段と並行しての活用が望ましいでしょう。
【掲載料金】無料
【サイト】ハローワークインターネットサービス
【運営元】厚生労働省 職業安定局
まとめ
本記事では、中小企業が新卒採用に失敗しやすい原因を明らかにし、構造的な解決策や成功事例を徹底解説しました。
学生の大手志向など、中小企業の新卒採用は苦戦しやすい要因はあるものの、自社の取り組みを改善することで、認知度の低い中小企業であっても新卒採用を成功させることができます。本記事を参考に、自社の魅力を作り出し、適切な採用手段・活動の下、新卒採用を成功させましょう。
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