アルバイト雇用に必要な書類一覧
アルバイトを雇用する際、どのような書類が必要になるのでしょうか。以下、「雇用契約に関する書類」「社会保険・雇用保険関連の手続きに必要な書類」「税務手続きに関する書類」について簡単にまとめました。
雇用契約に関する書類
アルバイトを雇用するとき、事業主は労働者に対して「労働条件」を明示することが労働基準法で定められています。労働条件は原則、書面にて明示する必要があることから、しばしば「労働条件通知書」という形で通達されます。ただ、「労働条件通知書」は事業主から労働者に対して一方的に交付するものなので、労働条件について互いの合意を取れていることを示す書類として「雇用契約書」を交付する企業もあります。
採用関係に携わっている皆さまならご存じの方は多いかと思いますが、「改正パートタイム・有期雇用労働法」の施行により、中小企業では2021年4月から「同一労働同一賃金ガイドライン」が適用されます。この影響で、事業主に対して「待遇の差に関する説明書」を作成する必要がある場合があります。以下、それぞれの書類について解説します。
労働条件通知書
労働条件通知書とは、労働基準法15条1項の定めに従って、事業主が労働者に対して一方的に労働条件を明示する書面を指します。明示すべき労働条件は以下の通りです。なお、【1】~【6】は明示が必ず義務付けられている「絶対的明示事項」になりますが、【7】~【14】は「相対的明示事項」になるため、会社に定めがない場合は明示の必要はありません。
絶対的明示事項 | 【1】労働契約の期間に関する事項 【2】期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項 【3】就業の場所及び従事すべき業務に関する事項 【4】始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項 【5】賃金(退職手当及び【8】の臨時に支払われる賃金を除く。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期に関する事項 【6】退職に関する事項(解雇の事由を含む。) ※アルバイトの場合は、上記に加え、①昇給の有無②退職手当の有無③賞与の有無④短時間労働者の雇用管理の改善等に関する事項に係る相談窓口について明示する必要がある(パートタイム労働法第6条)。 |
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相対的明示事項 | 【7】退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項 【8】臨時に支払われる賃金(退職手当を除く。)、賞与及び労基則第八条各号に掲げる賃金並びに最低賃金額に関する事項 【9】労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項 【10】安全及び衛生に関する事項 【11】職業訓練に関する事項 【12】災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項 【13】表彰及び制裁に関する事項 【14】休職に関する事項 |
※厚生労働省「採用時には、どのような労働条件をどの程度明示しなければならないのですか?」を元に作成
労働基準法第15条第1項に違反した場合は、労働基準法第120条によって事業主に対して30万円以下の罰金が科さられるため、確実に労働条件は明示する必要があります。
前述した通り、労働条件の明示方法は書面の交付に限られます。ただ、平成31年4月1日からは労働者が希望した場合、「FAX」「Webメールサービス」「SNSメッセージ機能」などで明示することが可能になりました。といっても、これらは出力して書面を作成できるものでなくてはならないため、注意しましょう。
メール等で送付した労働条件通知書については、労働者に対して確かに確認した旨の返信を依頼している事業者も多く、また確認後にWEB上で承認するシステムなどを活用しているケースもあります。こうした承認記録の確保は、報酬等の条件に関するトラブルの発生を防ぐことに役立つと思われます。
雇用契約書
雇用契約書とは、民法623法に基づき、事業主と労働者の間で雇用契約の内容について合意がなされたことを証明する書面をいいます。事業主と労働者のそれぞれが署名・捺印をすることから、法律上は書面作成義務がないものの、雇用後の労働条件に関するトラブルを避けるために交付する企業もあります。
なお、雇用契約書の内容は労働条件通知書の内容と重複するため、「労働条件通知書兼雇用契約書」として交付するケースもあります。
待遇の差に関する説明書
「待遇の差に関する説明書」とは、正社員と同一の労働の部分があり、待遇に差がある場合に待遇の差に関する理由を説明した書面をいいます。
いわゆる「同一労働同一賃金」と呼ばれる一連の法改正のうちパートタイム・有期雇用労働者法が、大企業は2020年4月1日から施行されており、中小企業は2021年4月1日から施行予定です。この法令の中で、アルバイトやパートタイマー、契約社員の方などの有期雇用労働者の方の業務内容で、通常正社員と呼ばれる、無期雇用労働者と同じ部分がある場合、その待遇の差についての説明を入社時にしなくてはならないというルールが定められています。
法令上求められているのは口頭での説明ですが、厚生労働省の資料等には待遇の差に関する説明書の例が常に出ているため、行政としては書面を使用するレベルの説明を求めているといえます。
賃金については、基本給や手当、その他、賞与や退職金などを含めた待遇のそれぞれの部分についての差異の有無や、差がある場合の説明を整理する記載する必要があります。よって、事業主は「待遇の差に関する説明書」の作成を前提に、待遇について検討する必要があります。また、差異が不合理なものである場合は法令に抵触する可能性がありますので、必要があれば社会保険労務士等の専門家への相談も考えられます。
社会保険・雇用保険関連の手続きに必要な書類
アルバイトでも、労働条件によっては社会保険(厚生年金保険・健康保険)・雇用保険に加入する必要があります。したがって、事業主は加入条件を理解した上で、必要であれば手続きに必要な書類を準備しなければなりません。加入条件と必要な手続きは以下の通りです。
加入条件 | 必要な手続き | |
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厚生年金保険・健康保険(協会けんぽ) | 以下のいずれかに当てはまる場合は加入対象となる。 ◆1 1週間の所定労働時間が一般社員の3/4以上かつ、1カ月の所定労働日数が一般社員の3/4以上の場合。 ◆2 一般社員の1週間の所定労働時間または、1カ月の所定労働日数が3/4未満でも、以下の条件に当てはまる場合。 (1)週の所定労働時間が20時間以上あること (2)雇用期間が1年以上見込まれること (3)賃金の月額が8.8万円以上であること (4)学生でないこと (5)以下のいずれかに該当すること ①従業員数が501人以上の会社(特定適用事業所)で働いている ②従業員数が500人以下の会社で働いていて、社会保険の加入について労使で合意がなされている(②は平成29年4月から認められている) ※詳しく日本年金機構のWebサイトをご確認ください。 |
事業主が「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」を、資格取得日から5日以内に事務センター(事業所の所在地を管轄する年金事務所)に提出する。 ※新たに厚生年金保険・健康保険の適用事業所になった場合は、「健康保険・厚生年金保険 新規適用届」を事務センター(事業所の所在地を管轄する年金事務所)に提出する。 |
雇用保険 | 31日以上引き続き雇用されることが見込まれ、かつ1週間の所定労働時間が20時間以上の場合。 | 被保険者となった日の属する月の翌月10日までに、事業主が「雇用保険被保険者資格取得届」を所管の公共職業安定所(ハローワーク)に提出する。 ※労働者を初めて雇う際は、保険関係成立に関する手続きを済ませた後、所管の公共職業安定所(ハローワーク)に「事業所設置届」「雇用保険被保険者資格取得届」を提出する。 |
※参考:
日本年金機構「就職したとき(健康保険・厚生年金保険の資格取得)の手続き」
厚生労働省「平成28年10月から厚生年金保険・健康保険の加入対象が広がっています!(社会保険の適用拡大)」
厚生労働省「事業主の行う雇用保険の手続き」
なお、令和2年度に年金制度改正法が成立したことにより、厚生年金保険・健康保険の適用範囲が拡大される予定です。現在、厚生年金保険・健康保険の適用対象とすべき事業所の企業規模要件は501人以上としていますが、2022年10月からは101人以上、2024年10月からは51人以上に変わるようです。
社会保険と雇用保険の手続きを行うにあたり、労働者に提出してもらう必要がある書類は以下の通りです。
マイナンバー
労働者のマイナンバーは、「健康保険・厚生年金被保険者資格取得届」「雇用保険被保険者資格取得届」を作成する際に必要になります。かつては「健康保険・厚生年金被保険者資格取得届」を作成するにあたり、年金手帳に記載されている「基礎年金番号」が必要でした。平成30年3月以降は「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律附則第三条の二の政令で定める日を定める政令(平成28年政令第347号)」の交付・施行により、「年金手帳(基礎年金番号通知書)」は不要です。
なお、マイナンバーの受け渡しや情報の保存については法令上、情報管理の方法が厳格に定められています。たとえば、企業において誰でも閲覧できる環境に保存したりすることは法令に抵触する危険性が高いでしょう。よく確認し、自社に適した運用を行う必要があります。
雇用保険被保険者証
「雇用保険被保険者証」に記載されている被保険者番号は、「雇用保険被保険者資格取得届」を事業所で作成する際に必要になります。雇用保険の適用条件に当てはまる人が、前の職場でも雇用保険に加入していた場合、提出してもらいましょう。言うまでもありませんが、初めて働く労働者に対しては提出を求める必要はありません。
なお、労働者から雇用保険被保険者証を提出してもらってから、そのまま会社で預かり、退職時に返還する運用を取っている会社が多いかと思いますが、これは法令上求められているものではありません。あくまでも労働者の許諾のもとに、労働者のものである雇用保険被保険者証を雇用主が代わりに保存するという立て付けの運用です。雇用保険被保険者証は被保険者であることの証明となりますが、在職中に個人で使う場面はほぼないため、このような運用を取っている場合が多いといえます。
健康保険被扶養者(異動)届
「健康保険被扶養者(異動)届」は、健康保険(協会けんぽ)の加入対象で、扶養家族がいる場合に提出してもらう書類です。企業は労働者から同書類を受け取ったら、管轄の年金事務所に提出します。
なお、被扶養配偶者がいる場合は「国民年金第3号被保険者届」を提出しなければなりませんが、「健康保険被扶養者(異動)届」は「国民年金第3号被保険者関係届」も兼ねた様式になっています。
税務手続きに必要な書類
ここでは、所得税の源泉徴収、住民税の特別徴収の手続きを行う際に、労働者に提出してもらう必要がある書類と企業側で準備する必要がある書類を説明します。
給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」は、事業主が「源泉徴収簿」を作成するために必要な書類です。労働者に記入してもらい、事業所で保管します。なお、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」は1つの勤務先にしか提出できないため、事業主は労働者に副業していないか等、確認してください。収入が多い方の勤務先に提出するのが一般的です。
源泉徴収票
年の途中で別の会社に勤務していた人をアルバイトとして採用した場合、以前の会社から交付された「源泉徴収票」が必要になります。年末調整の際に必要になる書類になるため、年末に提出してもらっても問題ありませんが、入社時に提出を求める場合が多いです。
特別徴収への切替申請書
従業員(納税義務者)の方から、個人住民税の普通徴収から特別徴収への切替を希望する申し出があった場合、事業主が「特別徴収への切替申請書」を労働者の住民票登録地(1月1日時点)の市区町村に提出する必要があります。過去に所得がない人、他の事業所で特別徴収されている場合は手続きは不要です。市区町村によって書類の名前や手続き方法が違う場合があるため、詳しくは各自治体にお問い合わせてください。
なお、初めて人を雇って給料を支払うようになった事務所については、「給与支払事務所等の開設届出書」を税務署へ提出する必要があることを覚えておきましょう。
その他提出を求めることが多い書類
その他、アルバイトを雇用する際に、必須ではないものの提出を求めることが多い書類を以下にまとめました。
・入社誓約書
・秘密保持誓約書
・住民票記載事項証明書
・身元保証書
・資格
・免許の証明書
・給与振込申請書
・健康診断書
・通勤手当申請書
高校生や留学生を雇用する際の注意点
ここでは、高校生や留学生をアルバイトとして雇用する際に注意したいポイントを簡単にご紹介します。
高校生を雇用するとき
満18歳を満たない者については本人の年齢確認が必要になるため、年齢を証明する戸籍証明書の提出を求める必要があります(労働基準法第57条)。
また、当然ながら労働者が高校生であっても、「雇用契約に関する書類」で説明した通り「労働条件」を明示する必要があります。ただ、年齢によって保護規定適用の範囲は異なるため、満20歳以上の労働者と同様の労働条件を明示しないよう、注意してください。
【労働基準法における年齢区分と保護規定適用の範囲」
※厚生労働省「高校生等を使用する事業主の皆さんへ」を元に作成
なお、民法第5条によれば、未成年が法律行為を行う場合は、その法定代理人の同意を得る必要があると規定されています。したがって、高校生が労働契約を行う場合は親権者の同意が確認できる書類の提出を求める企業もあります。
留学生を雇用するとき
外国人留学生の場合、資格外活動の許可を受けずに就労した場合は不法就労となるため、入国管理局から資格外活動許可を受けているかどうかを確認します。パスポートに「許可証印」または「資格外活動許可書」が交付されている場合に限り、アルバイトとして雇えます。
また、外国人を雇用する際、事業主は「外国人雇用状況届出書」を公共職業安定所へ提出する義務があるため、忘れずに行いましょう(労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律第28条)。
まとめ
本記事では、アルバイトを雇用する際に必要な主な書類を紹介しました。「労働条件の明示」は労働基準法で定められているため、確実に対応する必要があります。そのほかの書類は、労働条件や扶養家族の有無などによって必要の有無が異なるため、本記事を参考に各書類の必要条件を丁寧に確認しましょう。
本記事は要点をまとめた記事になりますので、詳しくは厚生労働省や日本年金機構等のWebサイトをご確認いただければと思います。
参考文献:
▼雇用関係に関する参考文献
厚生労働省「平成31年4月から、労働条件の明示がFAX・メール・SNS等でもできるようになります」
厚生労働省「第1章 パートタイム・有期雇用労働法の解説」
▼社会保険・雇用保険の手続きに関する参考文献
厚生労働省「平成28年10月から厚生年金保険・健康保険の加入対象が広がっています!(社会保険の適用拡大)」
日本年金機構「新規適用の手続き」
特定個人情報保護委員会事務局「はじめてのマイナンバーガイドライン(事業者編)~マイナンバーガイドラインを読む前に~」
厚生労働省「事業主の行う雇用保険の手続き」
大阪労働局大阪ハローワーク「従業員の雇用保険の主な手続き」
日本年金機構「従業員(健康保険・厚生年金保険の被保険者)が家族を被扶養者にするとき、被扶養者に異動があったときの手続き」
▼税務手続きに関する参考文献
国税庁「[手続名]給与所得者の扶養控除等の(異動)申告」
東京都主税局「特別徴収にかかる手続きについて」
国税庁「[手続名]給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出」
▼高校生・外国人留学生雇用に関する参考文献
厚生労働省「高校生等を使用する事業主の皆さんへ」
厚生労働省「外国人の雇用」
厚生労働省「同一労働同一賃金ガイドライン」
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