障害者雇用促進法における企業の義務とは?2020年改正の新設制度も解説 COLUMN

2022.02.27

2022.02.27

障害者雇用促進法における企業の義務とは?2020年改正の新設制度も解説

障害者雇用促進法が改正され、2021年3月より法定雇用率が引き上げられました。これにより、雇用義務の対象となる企業が広がり、これまで雇用義務のなかった一部の中小企業にも障がい者を雇用する義務が出てきました。今まで雇用義務がなかったために、どのような対応をすべきか、活用できる制度はないかとお悩みの方もいらっしゃるのではないでしょうか?

この記事では、障害者雇用促進法の意味や企業に課される義務、障がい者雇用に関する制度について解説しています。また、2020年に新設された制度についても紹介しています。

目次

障害者雇用促進法とは

障害者雇用促進法とは、障がい者の雇用に取り組むべき理由や企業に課される義務が定められた法律です。ここでは、障害者雇用促進法の目的や障がい者の定義について解説します。

障害者雇用促進法の目的

障害者雇用促進法には、障がい者の職業の安定を図る目的があります。障がい者が、他の人と同様に社会の一員としてさまざまな分野の活動に参加できるようにするノーマライゼーションの理念のもと制定されました。目的の実現のためには、以下に挙げる措置を総合的に講じる必要があると記載されています。

・障がい者の雇用促進のための措置
・障がい者と障がい者でない者との均等な機会・待遇を確保し、障がい者が自身の力を有効に発揮できるようにするための措置
・職業リハビリテーションの措置
・障がい者の職業生活においての自立を促進するための措置

※e-Gov法令検索「障害者の雇用の促進等に関する法律|第一条」を基に作成

障害者雇用促進法での障がい者の定義

障がい者は、障害者雇用促進法において「身体障がい・知的障がい・精神障がい・その他の心身機能の障がいがあり、長期的に職業生活で制限を受ける者、または職業生活を営むことが著しく困難な者」と定義されています。障がいの種類に応じて大きく以下の4つに分類されています。

身体障がい者

下記のいずれかの身体障がいがある者

 

1. 視覚障がいで永続するもの
・両目の視力がそれぞれ0.1以下
・片方の目が0.02以下でもう片方の目が0.6以下
・両目の視野がそれぞれ10度以内
・両目による視野の半分以上が欠けている

 

2. 聴覚・平衡機能の障がいで永続するもの
・両耳の聴力レベルがそれぞれ70デシベル以上
・片方の耳の聴力レベルが90デシベル以上、もう片方の耳の聴力レベルが50デシベル以上

 

3. 音声・言語・そしゃく機能のいずれかに障がいのあるもの
・音声・言語・そしゃく機能の喪失
・音声・言語・そしゃく機能の障がいが著しく、永続的

 

4. 肢体に不自由のあるもの
・片方の腕や手(一上肢)・片方の足(一下肢)・体幹のいずれかの機能の障がいが著しく、永続的
・片方の手の親指を指骨間関節以上で欠く、または片方の手の2指以上を第一指骨間関節以上で欠く
・片方の足をリスフラン関節(足の甲の関節)以上で欠く
・片方の手の親指の機能、または片方で3指以上の機能の障がいが著しく、永続的
・両足のすべての指を欠く
・上記の障がいの程度以上と認められる障がい

 

5. 心臓・じん臓・呼吸器の機能の障害やその他政令で定める障がいで、永続、かつ日常生活に著しい制限を受ける程度であると認められるもの

知的障がい者

児童相談所、知的障害者更生相談所、精神保健福祉センター、障害者職業センターのいずれかによって知的障がいがあると判定された者

精神障がい者

下記のいずれかに当てはまる者で、症状が安定しており就労できる者

 

1. 精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている者
2. 統合失調症・そううつ病・てんかんのいずれかにかかっている者

その他障がい者

上記に該当しない発達障がい者や難治性疾患患者など

※厚生労働省「障害者雇用対策の基本事項」を基に作成

障害者雇用促進法における企業の5つの義務

障害者雇用促進法において、企業には守らなければならない5つの義務があります。ここでは下記5つの義務の具体的な内容を解説します。

【1】法定雇用率の順守
【2】雇用分野での障がい者差別の禁止
【3】合理的配慮の提供
【4】障害者職業生活相談員の選任
【5】ハローワークへの届出

【1】法定雇用率の順守

障害者雇用促進法では、障害者雇用率制度が設けられており、すべての事業主は法定雇用率以上の障がい者を雇用する義務があります。算定の対象者は、身体障がい者と知的障がい者、精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている精神障がい者に限定されています。雇用義務を果たしていない場合、ハローワークから行政指導が行われます。法定雇用率は2021年3月に改正され、現行の法定雇用率は下記の通りです。(2022年1月現在)

事業主区分 法定雇用率
民間企業 2.3%
特殊法人等 2.6%
国、地方公共団体 2.6%
都道府県等の教育委員会 2.5%

※厚生労働省「障害者の法定雇用率が引き上げになります」を基に作成

計算により出てきた数字の小数点以下は切り捨てです。例えば、従業員数200人の民間企業では、200×0.026=5.2となるため、5人以上の障がい者の雇用が必要ということです。

また、労働時間の長さや障がいの重さによって人数のカウント方法が変わります。自社が法定雇用率以上の障がい者を雇用しているか確認するときに留意してください。例えば、従業員数200人の企業で、短時間労働者として6人の身体障がい者を雇用していても3人とカウントされ、法定雇用率を達成できていないとみなされます。

週の所定労働時間 30時間以上 20時間以上30時間未満
身体障がい者 1人 0.5人
重度の身体障がい者 2人 1人
知的障がい者 1人 0.5人
重度の知的障がい者 2人 1人
精神障がい者 1人 0.5人

※厚生労働省「障害者雇用対策について」を基に作成

週の所定労働時間が20時間未満の方についてはカウントしません。また、精神障がい者であり、20時間以上30時間未満の短時間労働者については、下記の要件をどちらも満たす場合は1人としてカウントします。

1. 新規雇入れから3年以内、または精神障害者保健福祉手帳の取得から3年以内
2. 2023年3月31日までに雇い入れられ、精神障害者保健福祉手帳を取得した

【2】雇用分野での障がい者差別の禁止

募集・採用・賃金・配置・昇進など、雇用に関するあらゆる場面で、障がい者であることを理由とした差別は禁止です。例えば、障がい者であることを理由として選考への応募を認めない、労働能力を適正に評価せずに障がいのない従業員より悪い待遇にするなどの行為は差別に該当します。

ただし、障がい者を積極的に雇用するために有利に扱ったり、適正に評価した上で障がいのない従業員より待遇が悪くなったりするのは差別に該当しません。

【3】合理的配慮の提供

事業主は、採用選考時や採用後に障がい者の事情に配慮し、無理のない範囲で措置を講じる必要があります。合理的配慮の例として以下のケースが挙げられます。

<採用選考時>
・視覚障がいのある方に配慮し、音声や点字を用いて採用試験を行う
・聴覚障がいのある方に配慮し、筆談や手話を用いて面接を行う

 

<採用後>
・肢体不自由の方に配慮し、社内のバリアフリー化を進める
・知的障がいのある方に配慮し、業務指示をするときに実物や写真など視覚的にわかりやすいものを用いて説明する
・精神障がいのある方に配慮し、情緒不安定になりそうなときに、落ち着くための場所で休めるようにする

合理的配慮の提供は、障がい者の状態や職場の状況に応じた対応が必要です。具体的にどのような措置を提供するかは、障がい者の方とよく話し合った上で決めてください。

ただし、特定の人への配慮によって他の従業員や事業活動に大きな影響がある場合、合理的配慮の実施を断れます。断る際は、配慮を求めた人に対して理由の説明が必要です。また、負担の少ない代替案の検討も求められます。

【4】障害者職業生活相談員の選任

障がい者を5人以上雇用する事業所では、障害者職業生活相談員を選任し、障がいのある従業員からの相談を受けたり、指導を実施したりする必要があります。障害者職業生活相談員には、厚生労働省の定める資格を持っている人や、障がい者の相談・指導の実務経験が3年以上ある人などを選任できます。

また、障がいのある従業員からの相談に適切に対応するための体制整備も義務づけられています。相談窓口の設置や相談を理由として不利益な取扱いをしないことの周知・啓発などの措置が必要です。

【5】ハローワークへの届出

事業主は、障がい者の雇用に関する状況についてハローワークに届け出る義務があります。ここでは、義務の対象となる書類である、障害者雇用状況報告と解雇届について解説します。ちなみに、どちらも電子申請によっての報告も可能です。

障害者雇用状況報告

障害者雇用状況報告とは、国が障がい者の雇用状況を把握し、必要に応じて企業に対して助言や指導をするため、従業員が43.5人以上の事業主に対して障がい者の雇用状況の報告を義務づけている制度です。義務の対象となる企業では、障がいのある従業員の人数を、障がいの種類や程度、労働時間など区分ごとに報告しなければなりません。

採用後に障がいの有無を把握できていない場合は、情報の利用目的を説明し、本人の同意を得た上で情報を取得してください。一度取得した情報を毎年度利用することが一般的ですが、精神障害者保健福祉手帳の有効期限切れや障がいの程度の変化があったときには情報の更新が必要です。また、プライバシー保護のため、収集した情報を適切に管理する体制の整備も重要です。

解雇届

すべての事業主は、障がいのある従業員を解雇する場合、速やかに管轄のハローワークに解雇届を届け出る必要があります。障がい者は一般の求職者と比べて再就職が難しいため、ハローワークでは職を失った障がいを持つ求職者を対象に早期再就職に向けた迅速な支援を行っています。週の所定労働時間が20時間未満の常時雇用の障がい者を解雇する場合でも届出が必要です。

障害者雇用促進法に関する制度

障がい者の雇用の促進・安定のために、実雇用率を複数社と合算して算定できる制度や障害者雇用納付金制度が設けられています。ここでは、算定特例の3つの制度と障害者雇用納付金制度について解説します。

特例子会社制度

特例子会社制度は、障がい者の雇用に特別に配慮した子会社を設立し、要件を満たした場合に子会社と親会社を合算して実雇用率を算定できる制度です。関係する子会社も含めた企業グループによる実雇用率の算定も可能です。

特例子会社制度のメリットは、障がい者の特性に配慮した仕事の確保や職場環境の整備がしやすく、障がい者の能力を十分に引き出せることです。また、職場への定着率向上や親会社と異なる労働条件の設定ができる点もメリットとして挙げられます。特例子会社に認定されるためには、親会社と子会社が以下の要件を満たす必要があります。

<親会社>
・親会社が子会社の議決権の過半数を有する

 

<子会社>
・親会社との人間関係が緊密
・雇用される障がい者が5人以上であり、全従業員に占める割合が20%以上であり、雇用される障がい者に占める重度の身体・知的・精神障がい者の割合が30%以上である
・障がい者の雇用管理を適正に行える設備や人員が整っている
・障がい者の雇用の促進・安定が確実に達成されると認められる

企業グループ算定特例(関係子会社特例)

企業グループ算定特例は、一定の要件を満たす企業グループとして厚生労働大臣の認定された場合、特例子会社がなくとも企業グループ全体で実雇用率の算定ができる制度です。

企業グループ算定特例のメリットは、グループ企業内に障がい者が就労しやすい企業がある場合、その企業を中心に障がい者の雇用を進め、グループ全体の業務効率の向上と障がい者雇用の促進を両立できる点です。企業グループ算定特例に認定されるためには以下の要件を満たす必要があります。

<親会社>
・親会社が子会社の議決権の過半数を有する
・親会社が障害者雇用推進者を選任している

 

<関係子会社>
・各子会社の規模に応じて、常用労働者数に1.2%を乗じた数(小数点以下切り捨て)以上の障がい者を雇用している
(中小企業の場合、常用労働者167人未満は要件なし、常用労働者167人以上250人未満は障がい者1人、常用労働者250人以上300人以下は障がい者2人を雇用している)
・障がい者の雇用管理を適正に行える設備や人員が整っている、または他の子会社が雇用する障がい者の行う業務において、人的関係・営業上の関係が緊密である
・障がい者の雇用の促進・安定が確実に達成されると認められる

事業協同組合等算定特例(特定事業主特例)

事業協同組合等算定特例は、中小企業(特定事業主)が事業協同組合を活用して協同事業を行い、一定の要件を満たすとして厚生労働大臣に認定された場合、障がい者を雇用している複数の企業で合算して実雇用率を算定できる制度です。

事業協同組合等算定特例によるメリットは、個々の中小企業では難しい障がい者雇用の推進を、複数企業で共同できる点です。事業協同組合等算定特例認定のためには、以下の要件を満たす必要があります。

<事業協同組合の要件>
・事業協同組合、水産加工業協同組合、商工組合、商店街振興組合である
・事業協同組合が障害者雇用納付金を徴収された場合、個々の中小企業の障がい者の雇用状況に応じて、納付金の経費を賦課すると規約等に定められている
・障がい者の雇用の促進・安定に関する事業を適切に実施するための計画を作成し、計画に沿って確実に達成できると認められる
・個々の企業が1人以上の障がい者を雇用し、雇用する常用労働者に対する障がい者の割合が20%を超えている
・個々の企業が雇用する障がい者の雇用管理を適正に行える設備や人員が整っている

 

<特定事業主の要件>
・事業協同組合等の組合員である
・雇用する常用労働者数が43.5人以上である
・他の算定特例を受けておらず、当該認定における関係会社や子会社でない
・事業協同組合等の行う事業と特定事業主の行う事業との人的関係、営業上の関係が緊密である
・規模に応じて、一定数以上の障がい者を雇用している
(常用労働者167人未満は要件なし、常用労働者167人以上250人未満は障がい者1人、常用労働者250人以上300人以下は障がい者2人を雇用している)

障害者雇用納付金制度

障害者雇用納付金制度は、障がい者の雇用に伴う経済的負担の調整と障がい者の雇用水準の引き上げのため、法定雇用率未達成の企業から納付金を徴収し、法定雇用率達成企業に調整金・報奨金を支給する制度です。

障がい者の雇用には、職場環境の改善や特別な雇用管理などが必要となり、障がいのない従業員の雇用よりも、一定の経済的負担が伴います。障がい者を多く雇用している企業の負担を軽減し、未達成企業との公平性を保つために設立されました。

納付金は不足人数1人につき月額50,000円徴収されます。ただし、従業員数100人以下の中小企業からは徴収していません。納付金を財源とし、雇用率を達成した企業に、超過1人あたり27,000円(中小企業の場合21,000円)が報奨金として支給されます。また、障がい者を雇用するために施設の整備や重度障がい者の介助者を配置する企業への助成金としても活用されます。

障害者雇用促進法の新設制度と活用法

障害者雇用促進法は、1960年に制定されてから、複数回にわたって改正されてきました。例えば、2018年の改正では雇用義務の対象に精神障がい者が加わり、2020年の改正では特例給付金の支給と優良中小企業認定の制度が新たに追加されています。また、2021年の改正では、法定雇用率が引き上げられました。ここでは、2020年に新設された2つの制度の内容と活用法を解説します。

特例給付金の支給

週の所定労働時間が20時間未満の障がい者を雇用する事業主に対して、特例給付金を支給する制度が新設されました。特例給付金は、短時間であれば就労できる障がい者の雇用を促進する目的があり、納付金が財源となっています。以下の条件をすべて満たす障がい者を雇用している事業主に支給されます。

・障害者手帳を保持している
・1年を超えて雇用される(見込みを含む)
・週の所定労働時間が10時間以上20時間未満

支給額は、申請対象期間に雇用していた対象障がい者の人数×支給単価です。対象障がい者の人数は、実人数でカウントします。また、支給単価は、従業員数100人を超える事業主の場合7,000円、100人以下の事業主の場合5,000円です。

申請対象期間は、従業員数100人を超える事業主は2022年4月1日から5月16日、従業員数100人以下の事業主の場合2022年4月1日から8月1日です。申請書は独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構のページからダウンロードできます。

優良中小企業の認定

障がい者雇用に関する優良な取組を行う中小企業に対する認定制度が新設されました。優良認定企業に認定されるメリットは、厚生労働省や労働局のホームページに掲載され認知度の向上に役立つ点です。また、働き方改革推進支援資金の低理融資の対象となったり、公共調達の加点評価を受けられたりといったメリットもあります。

認定されるには、法定雇用率以上の障がい者を雇用しており、以下の評価項目ごとに加点方式で採点し20点以上(特例子会社は35点以上)の獲得が必要です。

障害者雇用に関する優良な中小事業主の認定制度について

※出典:厚生労働省「障害者雇用に関する優良な中小事業主の認定制度について

それぞれの評価要素については、厚生労働省「障害者雇用に関する優良な中小事業主の認定制度について」で紹介されていますのでご覧ください。

まとめ

障害者雇用促進法において、企業には法定雇用率の順守や雇用分野での差別の禁止、合理的配慮の提供などの義務があります。中小企業では障がい者の雇用が難しいケースもありますが、算定特例や特例給付金などの制度を活用したり、優良認定企業の取り組みを参考にしたりして障がい者の雇用の促進・安定に努めてください。

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コピーライター、人事(採用担当)を経て、大手人材会社でディレクターとして、クリエイティブ企画や経営戦略にひもづいた人材採用・活用のコンサルティング業務などに従事。現在はIT企業勤務の傍ら、マーケティング・人材採用の領域を専門に中小企業支援を行っている。

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