試用期間とは?設定方法やトラブルを避けるための注意点を解説 COLUMN

公開日:2022.08.26

更新日:2022.08.26

試用期間とは?設定方法やトラブルを避けるための注意点を解説

「入社者が自社にフィットするかどうかを、試用期間を設けてじっくり確認したい」
「試用期間に関するトラブルをよく聞くが、何に気をつけていいか分からない」

採用した社員が自社に定着するかどうかを見極めるための「試用期間」。試用期間を設けている企業はあるものの、働く側の立場を保護する観点でいくつか注意すべきことがあります。

今回は試用期間の意義や注意点、実際に試用期間を設ける際のポイントやNG行為について解説します。適切に試用期間を設定し、自社にフィットする人材を実践を通じて見極めたいとお考えの方は、ぜひご一読ください。

目次

試用期間とは?

試用期間とはアルバイトや正社員などの雇用形態の違いにかかわらず、新しく採用した社員の適性や能力を、業務を通じて把握するための期間のことです。

ある程度の試用期間を設けることで、選考だけでは分からなかった実際の働きぶりを確認することができるため、本採用に向けて業務への適性や配属先の検討を行うことが可能になります。入社者側も同様で、入社前に思い描いていた仕事と実際の仕事のギャップを確認する期間になります。

つまり、試用期間は企業側と社員側の双方が「本採用前のお試し労働期間」のような位置付けで、試用期間の終了後にお互いが問題ないと判断すれば、本採用に至ることになるのです。

なお「研修期間」とは、入社後に会社の業務を行うにあたって必要な知識や技術を習得するための期間のことをさします。一般的に研修は座学と思われがちですが、実際の業務を行いながら覚えていく研修内容もあるため、試用期間と混同されやすくなっています。

本来は研修期間と試用期間の意味や目的は異なりますが、企業によっては定義が混在している場合もあります。

試用期間を設定する意義やメリット

企業の多くは、書類審査や面接などの選考を経たうえで応募者の採用を決定しますが、選考だけで本当に会社の戦力となり得るかは分かりません。

実際に仕事をしている様子を見て業務への適性を判断できるのが、試用期間のメリットです。社風への適応力や他社員との協調性なども見極められるので、より自社に合った人材を見極めやすくなるでしょう。

また入社者側にもメリットがあります。実際の業務を通じて「自分がやっていけそうか」などが確認できるため、試用期間の感触を人事に伝えることで、配属先検討などを行ってもらえる可能性があるからです。

試用期間を設けることで、企業側・入社者側のミスマッチを回避し、入社後の定着につながる可能性が高くなります。本来的なマッチングができることが試用期間のメリットといえるでしょう。

さらに試用期間を設けることでトライアル雇用助成金を受け取れる可能性もあります。
トライアル雇用助成金は、一定の条件を満たすことで3カ月以上雇用した労働者がいた場合、企業に対して支払われる助成金です。

雇用促進のための助成金なので、せっかく採用を行なうのであれば積極的に活用しましょう。
トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)

試用期間を設定する注意点やデメリット

前述したように、試用期間は企業側も入社者側も「お試し期間」という位置付けです。従って、試用期間の終了時に会社側が本採用を希望しても、入社者が本採用を希望しない場合もあり得ます。そうなると、入社して欲しい人材が本採用に至らないというデメリットになってしまいます。

また中途採用の場合、応募前の企業探しの段階で「試用期間なしの本採用であること」を条件に入れている方もいます。その場合、試用期間があることで応募者からエントリーを敬遠されるデメリットが生じます。同様に、採用したいと思った方に複数の企業から内定が出ている場合には、試用期間の有無や長さが内定辞退につながってしまうリスクもあります。

支出に関する観点も忘れてはいけません。諸事情があり本採用に至らなかったとしても、試用期間中には給与の支払いが生じています。試用期間にも企業の人件費を消費していることは、予めご理解ください。

試用期間を設定する方法とポイント

社員を雇用する際、企業は入社者に対して雇用条件を記載した「労働条件通知書(一般的には契約書を兼ねた「労働条件通知書兼雇入通知書」)」を作成し、交付しなければなりません。

試用期間を設ける場合には、期間・給与などの処遇について労働条件通知書への記載、及び本人への説明が必要です。また、社内の就業規則にも試用期間があることや、試用期間中の労働条件について明記する必要があります。

具体的に明記が必要な項目について、ここから解説していきます。
参考:労働基準法施行規則労働基準法

期間

試用期間の長さに法律上の決まりはありません。企業側が独自で業務ごとの修練の期間などを勘案し設定することがほとんどですが、一般的には3か月、長くても6か月程度です。

試用期間中は入社者が不安定な立場であることに留意しなくてはならないため、試用期間を1年超で設定するのは長すぎると言えるでしょう。また、契約社員やパート・アルバイトなど、雇用形態に応じた試用期間を設けることも可能です。一般的に正社員以外の雇用形態では業務や責任の範囲が狭くなるため、正社員に比べて試用期間は短い場合が多いです。

いずれにしても自社で担ってもらう業務に必要な動きを確認する目的に則り、適正な期間を設けるようにしましょう。

給与

試用期間中は、本採用時より給与が低く設定されているケースがありますが、法律で定められた最低賃金を下回らない範囲であれば問題はありません。

少し古いデータになりますが、2005年の調査によると、試用期間終了後に基本給や手当の増額をする企業は35.3%でした。約4割の企業は、本採用時に比べて試用期間中の給与を低く設定していることになります。
参考:従業員関係の枠組みと採用・退職に関する実態調査【労働政策研究・研修機構】

試用期間に低い給与を設定している場合は、労働条件の通知の際に「本採用になれば、これくらいの水準の給与になる」と、本人に今後の見通しを伝えるようにしてください。

各種保険

各種保険は、試用期間中だからといって待遇が変わるわけではありません。企業の義務として、従業員に必要な保険には加入させなくてはなりません。

労働保険(労災保険・雇用保険)や社会保険(健康保険・厚生年金)などの各種保険は、国が運営する強制加入の保険という位置付けです。試用期間であっても従業員が加入要件を満たしている場合は、必ず加入させる必要があります。

入社者も保険が適用されていないのは、自分の立場への不安を感じるばかりか、会社としての基本的な対応姿勢に疑問を感じる恐れもあります。場合によっては法律違反になる可能性もあるため注意しましょう。

試用期間中に注意が必要なNG例

次に試用期間中にやってはいけないNG行為について紹介します。事前にポイントを押さえて、入社者に不利益を与えないように気をつけてください。

不当に給与を安くする

前述した通り、試用期間中は本採用時よりも低い給与に設定することは問題がありませんが、不当に低い給与にするとトラブルのもとになります。

具体的に注意したい水準は、最低賃金を下回らないことです。最低賃金は、地域別に毎年改定されています。例えば試用期間中の給与を昔から見直しをしていない場合などは、最新版の最低賃金を下回る金額になっていないか確認する必要があります。

例外として、企業が都道府県労働局長の許可を得た場合は、試用期間中の給与が最低賃金を下回ることも可能です。最低賃金の減額の特例許可制度により、最低賃金の20%まで減額できます。
参考:最低賃金の減額の特例許可申請について【厚生労働省】

いずれにしても、都道府県労働局長の許可なしに最低賃金を下回るのは違法となります。従業員には労働に対する正当な対価を支払うようにしましょう。

また、試用期間中であっても、雇用契約を交わした労働者であることに変わりはないため、残業があれば残業代も支払うように注意してください。

試用期間中に正当な理由なく解雇する

試用期間は労働基準法で定義されていないため、通常の社員同様、正当な理由なく従業員を解雇することはできません。

正当な理由というのは、「無断欠勤や遅刻などの勤怠不良」や「職務経歴書や過去経歴の詐称」など極端に業務に悪影響を及ぼす場合に限られます。人間性や相性、性格などを判断材料に安易に解雇することはできません。解雇を行う場合は、通常解雇のルールに則り30日前に社員に対して解雇予告を行う必要があります。

また、労働基準法21条によると、試用期間14日以内であれば労基法上の手続きがなく解雇は可能です。ただしこの場合も合理的・客観的な理由が必要です。正当な理由なく解雇をしてしまうと、解雇権の濫用と見なされることがあります。

なお過去の事例として、試用期間の終了を待たずして一方的に解雇してしまい「企業が社員に与えるべき試用期間を十分に与えなかった」と、不当解雇に該当したケースもあります。社員を受け入れる立場として、試用期間の満了時までは社員に適切な指導や教育をしていく心づもりでいるようにしましょう。

試用期間を不当に延ばす

試用期間の延長をする場合、就業規則で延長ができる旨が定められていることが必要です。

就業規則に試用期間の延長に関する記述がないにも関わらず、採用時に定めた試用期間を勤務開始後に企業側の事情で延長することはできません。

仮に就業規則に延長できる旨を記載したうえで、試用期間を延長をする際も、本人との面談を行い理由や根拠などを知らせる努力は必要です。一方的に延長すると本人のモチベーション低下のみならず、労務トラブルにも発展しかねないので注意しましょう。

有給休暇を与えない

試用期間中も、採用から半年経過時点で有給休暇が発生します。労働基準法で定められた有給休暇の日数を付与するようにしましょう。

労働基準法第39条第1項は、「使用者は、その雇入れの日から起算して6ヵ月間継続勤務し全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した10労働日の有給休暇を与えなければならない」と定めています。

この「雇入日」は本採用日ではなく試用期間開始日を指すため、試用期間中も含めて6ヵ月間継続して勤務した場合には、有休を付与する義務があります。
参考:労働基準法第 39 条

もし試用期間が1年間など長期に及ぶ場合は、社員に必要な休息を取らせるためにも有休休暇を付与することを忘れないでください。

まとめ

試用期間は、企業と従業員の相性や適性を判断するための大切な期間です。本採用後、入社者の能力を生かしたポジションで気持ち良く働いてもらうためにも、試用期間中にしっかりと信頼関係を築けるよう努めましょう。

ただし、試用期間についてのルールを企業が知らないことで、思わぬトラブルが発生することもあります。過去のケースでは訴訟問題へと発展した事例があるため、事前に基礎知識を学ぶようにしてください。

試用期間に限らず、入社者にとって人生の大きな転機となる採用場面では労務トラブルが起きがちです。知識に不安がある方は「採用関連の法律をまとめたハンドブック」をご活用ください。事前に必要な法律知識などを学ぶことができるため、安心して採用活動を行えるようになるでしょう。

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