ジョブ型雇用とは?
ジョブ型雇用とは、仕事内容に必要なスキルを持つ人材を雇用する、欧米で主流となっている制度です。ここでは、ジョブ型雇用導入に必要な職務記述書の概要や注目される背景、日本で多く見られるメンバーシップ型雇用との違いについて説明します。
職務記述書をもとに契約を交わす雇用形態
ジョブ型雇用では、職務記述書をもとに契約を交わします。職務記述書とは、職務の内容や目的、責任範囲、雇用形態、勤務地、必要な知識・スキルなどが明記された文書のことです。
ジョブ型雇用が注目される背景
ジョブ型雇用は、経団連による導入の提言や、政府による多様な働き方の推進などの背景から注目されています。アデコ株式会社が行った「ジョブ型雇用の認知度・導入状況に関するインターネット調査(※)」の結果によると、ジョブ型雇用の認知率は55%と半数を超えていました。また、認知している企業の半数以上がジョブ型雇用の導入に前向きな姿勢を見せていることも分かっています。
今後ジョブ型雇用が広まれば、年齢にとらわれず、その人の能力に見合ったポジションの仕事(ジョブ)に転職しやすい環境になり、多様な働き方にも対応できると期待されています。
※アデコ株式会社「【アンケート結果】ジョブ型雇用の導入状況・メリット・デメリットなど」
ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用の違い
ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用の大きな違いは、人を雇ってから職務を決めるか、職務を決めてから人を雇うかということです。
メンバーシップ型雇用は、いわゆる新卒一括採用のことで、総合職として人材を採用し、ジョブローテーションによって適正を見極めながら人材育成するものです。ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用の特徴は以下のようになっています。
ジョブ型雇用 | メンバーシップ型雇用 | |
---|---|---|
仕事の幅 | 職務記述書に記載されている範囲の仕事 | 会社の都合で変わる。個人でコントロールしづらい |
身に付けられるスキル | 職務遂行に必要なスキル | ジョブローテーションで配属される部署で必要となるさまざまなスキル |
教育制度 | 自らスキルを磨く | 企業側が用意する集合研修や配属先でのOJT |
報酬制度 | ポジションにより決まる | 年齢や勤続年数、能力、雇用形態などによって決定 |
転勤 | なし | あり |
流動性 | ミスマッチがあれば解雇・転職 | ミスマッチがあっても、企業側から解雇されない |
ジョブ型雇用は、持っているスキルを発揮することで職務を遂行するのに対して、メンバーシップ型雇用は入社後に社員に合った職務を決めていくことが分かります。
欧米で導入されているジョブ型雇用では、企業側の都合に合わせた柔軟な配置転換ができないため、ミスマッチがあれば新しい条件で再度契約or解雇・転職となるのがスタンダードです。しかし日本型のメンバーシップ雇用では、解雇するのではなく配置転換などにより雇用維持することを求められます。
ジョブ型雇用のメリット・デメリット
ジョブ型雇用のメリットは、ポジションに見合った即戦力人材を採用しやすいことです。
ジョブ型雇用では、年齢などその人の将来性を加味する必要はなく、目の前のポジションに応じた専門スキルや知識、経験を持った人材であれば採用可能です。万が一、そのポジションがなくなった場合は解雇すれば良いため、新卒一括採用で行われているような、一生雇い続ける前提の、あれもこれも求める厳格な審査をする必要はありません。
一方、ジョブ型雇用のデメリットは、処遇がポジションによりあらかじめ決められているため、上が詰まって出世が望めない場合などに、より条件の良い企業に人材が流出してしまうことです。
メンバーシップ型雇用のメリット・デメリット
メンバーシップ型雇用のメリットは、長期的に人材育成できること、会社の都合で職務変更や異動を命令できることです。
メンバーシップ型雇用では、ジョブローテーションによってさまざまな職務を経験させながら、自社の幹部候補となる社員を育成できます。また、採用時に職務内容や勤務地について限定していないので、仕事の範囲や勤務地を戦略に合わせて変更することが可能です。
一方で、メンバーシップ型雇用のデメリットとしては、人件費が高くなりやすいことが挙げられます。
メンバーシップ型雇用では、採用したら定年まで雇用が続きます。職務内容が変わらなくとも定期昇給により支払う賃金は増えていくので、人件費が高くなりやすいです。
また、定期昇給は、社員が生涯にわたって成長・競争し続けるのが前提の制度でもあります。一度、レールから外れてしまった人材の復帰が困難であることや、会社に尽くす仕事ファーストの働き方が求められがちで、長時間労働の温床となっている負の側面もあります。
ジョブ型雇用の導入事例3選
ジョブ型雇用制度への関心が高まりつつある中で、実際に導入する企業も出てきています。ここでは導入企業の事例を紹介します。
富士通株式会社
富士通株式会社では、2020年4月より幹部社員を対象としたジョブ型の人事制度を導入しています。人材の流動性が高まる現代で、人材流出を防ぐために、社内の流動性を高めようという狙いがあります。ジョブ型の人事制度とは、FUJITSU Levelと呼ばれる職務の大きさや重要性を格付けしたものを基準にして報酬を決定する制度です。より大きな職務にチャレンジすることを促し、成果を上げた人には報酬をタイムリーに与えることが目的とされています。今後この範囲を拡大し、社内の流動性を高めようとしています。
株式会社日立製作所
株式会社日立製作所では、2021年4月からジョブ型雇用を導入しました。日立では、期待される成果と報酬が見合っていないという課題を解決するために、役割や職責の大きさに応じてポストに値段をつける制度を導入しています。明確になったポストの役割や職責を果たせる人材が年齢に関係なくポストに就けるようにジョブ型雇用への移行を決めました。
また、ジョブ型雇用に移行することで、会社から与えられたキャリアを受け入れるのではなく、自らの意思でキャリアを築き、仕事のやりがいや意義を感じながら働いてもらいたいという思いもあるようです。
KDDI株式会社
KDDI株式会社では、2020年8月よりジョブ型人材マネジメントを用いた人事制度が導入されました。この制度は、働いた時間ではなく、成果や挑戦、能力を評価し処遇へ反映することを目的として、KDDI型のジョブ型の推進を目指すためのものです。市場価値に基づく報酬制度や社員のスキルの専門性を高めることが可能になるジョブ型の長所を生かしながら、KDDIグループの広い事業領域でのさまざまな成長機会を活用してもらう狙いがあります。また、KDDIでは2021年4月からは、新卒社員の一律の初任給制度を撤廃し、能力に応じた給与体系を導入しています。
ジョブ型雇用導入にある4つの障壁
ジョブ型雇用にはメリットもあるものの、導入にはさまざまな障壁があります。ここでは、企業がジョブ型雇用導入のために超えるべき4つの障壁について紹介します。
制度の変更が必要
ジョブ型雇用は、ポジションに応じて報酬を決定する制度であるため、職務に応じた給与テーブルの設計が必要です。多くの日本企業が導入している年功序列の賃金制度との両立ができないので、人事制度を大幅に見直さなければいけません。
中小企業では、ポジション分けが難しい
中小企業では人手不足や労務費削減のために、1人が複数の業務をこなすこともあり、職務はそのときの人員構成に応じて流動的になりがちです。
一方で、もともと新卒採用よりも中途採用が主体の企業も多いため、事業運営に必要なスキルや経験を整理し、その都度、不足しているポジションを柔軟に用意できれば、大手企業よりもジョブ型雇用の導入は進めやすいかもしれません(ただし、ポジションにふさわしい人材を獲得できる採用力があることが前提です)
職務記述書の作成が難しい
ジョブ型雇用を導入するには、どの事業部にどんなポジションの人材が何名必要か、部長から平社員にいたるまで明確にしなければいけません。しかし、各部署の業務を正確に把握し、ポジションごとの職務記述書を担当者一人で作成するのは現実的ではありません。
解決策としては、時間はかかりますが、ジョブ型雇用の検討段階から各部署を巻き込んで合意形成を図るのが王道です。各部署の具体的な職務内容と責任範囲を明確にし、人事部門、経営サイドの考えや期待と現場の業務実態とをすり合わせていきます。
一つの企業内だけで完結できる課題ではない
ジョブ型雇用は、いち企業の仕組みの話ではなく、雇用を取り巻く社会システム全体に関わる課題です。人材育成、キャリアデザイン、転職市場の流動化、長時間労働、同一労働同一賃金など、あらゆる問題が影響します。
ジョブ型かメンバーシップ型か。二者択一ではなく、両者の良いところを融合し、社会全体で新しい雇用の形を模索していくことが求められており、いまがその過渡期です。
まとめ
ジョブ型雇用は、仕事内容に必要なスキルを持つ人材を雇用し、年齢や勤続年数ではなくポジションに応じて報酬を決定する制度です。認知が広がり、導入企業が増えてはいるものの、企業ごとにジョブ型雇用の定義は様々で、まだ曖昧なところも多いのが実情です。
企業によっては、一部の職種に限定してジョブ型雇用を導入している事例もあります。まずは自社に適した形で、スモールスタートで導入を検討すると良いでしょう。
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